――ぽう……。
淡い光が時と共に、彼方へと流れてゆく。
男性は見えなくなるまで、しばらく灯を見つめた続けたあと、
背中に広がっていた羽根を虚空へ溶けるように消す。
終わる事のない時空の流れ。
切れる事のない輪廻の流れ。
男性は小さく首を振った。
「ジェームズ」
ふと、後ろから声をかけられる。
男性――ジェームズは驚きながら振り返った。
「ケイ様?何故、ここに……」
ジェームズが驚くのも無理はないだろう。
何故なら多忙を極めるジェームズの上司である彼が、
いつのまにか後ろへと立っていたのだから。
それにここは、彼の宮殿ではない。
彼はくすくすと笑いながら、長い髪を揺らして近づく。
子供にするかのように、ジェームズの頭を優しく撫でた。
「見つけたんだよ。リリーの眠ってしまった原因をね」
「本当ですかっ!?」
――しまった。
ジェームズが我に返って青ざめたのは、告げられた言葉に
思わず上司の手を振り払って詰め寄ってしまったあと。
けれど彼は少しも怒らず、重々しく頷いてみせた。
ジェームズの妻、リリー。
彼女は数日前、突然意識を失って倒れてしまった。
今も奥の部屋のベッドの上で、静かに眠りつづけている。
「ああ、“碧”での時空のゆがみが原因だったようだ。
あの子は一番、“碧”での影響を強く受けやすいからな……」
「……“碧”……」
彼の言葉に、ジェームズは顔を強張らせてぽつりと呟く。
碧の術界――それは彼らの間での通称で、実際の名称は違うが
“魔術界”と呼ばれている世界だ。
そして、ここに来る前にジェームズとリリーがいた世界であり、
自分の息子や、親友達や仲間達がいる世界だ。
その世界に――妻の眠る原因がある。
きっ、とジェームズは顔を上げる。
自分を見下ろしてくる上司へ、意志を告げた。
NEXT.