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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

もう一つ、その後の場合と事実





ケース1 ――時計ウサギの場合。


ぴくりと耳が動いたのは無意識で、気づいた時には遅くて。
僕の周りに誰もいなくて良かった。本当に良かった。
せめて我侭を許されるのなら、このまま誰も近寄らないでほしい。
――何故なら。
どんなに今ここから逃げだしたくても、僕の優秀すぎる耳は
『迷子の足音』 を聞き分けてしまうから。

「とけーいウサーギさーん!!」

……ほら、来た。
さらさらの金髪と青い瞳の女の子。

「……あのね……」
「こんにちは、時計ウサギさんっ!」



一日おきに 『迷子』 になるのはやめてくれ!!!



ケース2 ――彼女の場合。


今日は自ら、私が 『迷子』 になる日で、気分は上昇。
何故なら――?
いつも追いかける彼に、会うことが出来る日だから。
たくさん小言を言うけれど、どこか優しい彼に。

「こんにちは、時計ウサギさんっ!」
「……まったく……狙ってるんだか狙ってないんだか……」

白く長い耳が、ぴくぴく動く。
手に持っているのは磨かれた銀色の懐中時計。
初めて会った時から、服装もあまり変わってはいない。
あきれたように私を見上げる、大きな瞳も。

「今日はどちらへお行きになるのですか?」
「……君を送るの!! 元の世界に!!!!!」



ケース3 ――時計ウサギの場合。


何でこんな事になったんだろう……?
彼女がここへ来る時は狙ったように僕が一人でいる時で、
未だに同僚たちには彼女のことがバレてない。
けれど何故だか、上司にはその日にバレていて。
『彼女を元の世界に送ること』 と言われてしまっている。
あの上司の考えは、いつになっても分からなくて困ってるんだ。

「ではまた、明後日に」

もう、来なくていいってばっ!!



ケース4 ――彼女の場合。


ああ、また今日も怒られてしまいましたわ。
けれど私も諦めるなんてしません……。
だって、ずっとずっと会いたいと願っていたのですもの。

私はふと夢から覚めたみたいに、自分の家の庭へと降り立った。
ああ、少ししかお話できませんでしたわ……。
そして私は、庭先に立っている二つの人影に気がついて。

「……あ、曾祖母様!! 曾祖父様っ!!」





ケース5 ――曾祖母と曾祖父の場合。


「お帰り」
「ただいま戻りましたわ!!」
「どうだったかな?」
「怒られてしまいました。でもまた明後日行きますわ」

にっこりと笑うひ孫に、曾祖母はしわくちゃの顔で微笑む。
曾祖父はそんな二人を嬉しげに見つめている。

「そう」
「 『逃げ去る者に追いかける者あり』 ですものね」
「ええ……そうよ?」

嬉しそうに大きく頷いてみせたひ孫。
曽祖父にもお辞儀をしてから、ぱたぱたと走って部屋へ戻っていく。
その場に残ったのは、老年の紳士と淑女のみ。
ふと、曾祖父は可愛いひ孫がこちらへ戻ってきた方を見やる。

「……懐かしいものだね」
「ふふ、そうねえ」
「あれから……もう何十年……それすら覚えてないとは」

くすくすと楽しそうに、けれど少し苦いものを含んで曾祖父は笑う。
ゆっくりと胸のポケットに手を伸ばし、静かに取り出したのは、
綺麗に磨かれた金の懐中時計。
ぱちりと開いて、ぱちんと閉じる。

お人よしで良く寝坊して仕事に遅れて怒られた 『昔の自分』 。
そう――それはなんて酷く懐かしい過去なのだろうか。
ああ、何故なら。

「 『逃げ去る者に追いかける者あり』 か……」
「ええ」
「私は一度も逃げてはいなかったけれどね」




誰よりも、君が来るのを待っていたから。

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