子供は手にしたジャック・オ・ランタンを掲げる。
すると薄暗かった町に、ぽつり、ぽつりと淡い光が灯される。
光の色は、とてもあたたかな橙色。
ややすると、町の中から笑い声が聞こえてきた。
子供は声を聞くとにっこりと微笑み、その場を離れた。
カボチャにこうもりの羽根をつけたデザインの、ふわふわとした帽子。
歩くたびに風に揺れる、さらさらとした橙色の髪の毛。
腰くらいまでのゆったりとした、黒いマント。
三日月に象られた、首元の留め金から揺れるのは黒い鎖。
大きめの白いセーターに、黒く短いズボン。
セーターの上から巻いている、ぶかぶかの大きい黄色いベルト。
光を映して輝く、金色の瞳。
子供は街から町へと歩き続ける。
休むことなど知らぬかのように。
疲れを感じないかのように。
楽しそうに、楽しそうに笑いながら。
町の人々は、子供の名前や年齢を知らない。
“子供”の存在はなくてはならないもの。
“子供”の存在はそれだけであるもの。
町の人々が知るのは、ただその事実のみ。
だからと言って、怖がるわけでも邪険に思うわけでもない。
むしろ、彼らは子供の来訪を待ちわびている。
子供が町に来て、淡い光を灯す。
そうすれば、誰も迷うことなどなくなる。
彷徨って彷徨って、哀しみにくれることはなくなる。
だから子供は歓迎される。
留まってくれと、懇願される。
しかし、旅はまだ終わらないと子供は告げて町を出る。
次の町へと光を灯しに行くため。
子供を待つ人のために。
そして、子供は最後の町に辿り着いた。
夜空を見上げれば、煌々と輝いている大きな満月。
今まで歩いてきたどんな町より、この町の月は綺麗に見えた。
子供はさっそく、ジャック・オ・ランタンを掲げる。
いつものように町に、ぽつり、ぽつりと淡い橙色の光が灯された。
にっこりと子供は微笑む。
すると、子供は珍しくも町の中へと入っていく。
途中何度か街路を曲がっていき、見つけたのは一軒の家。
子供はコンコンと軽くドアをノックする。
やや間をおいて出てきたのは、一人の女性。
しかし大人ではなく、子供の見た目より少し年上といった所か。
「こんばんは、月長さん」
女性は少し驚いた表情を浮かべた。
「珍しいですね……」
「今日は早く終えてきたんですよー」
「もしかして?」
「はい、ぜひ仮装コンテストを見ようと」
にっこりと笑う子供に、女性も嬉しそうに微笑む。
「町の皆が喜びます」
「そうですか?」
「ええ。皆、あなたを待っていましたから……」
どうぞ、と女性は町の方へ子供を導く。
子供はあとを歩きながら、くすくすと笑った。
「別に僕なんか……ありがとうございます」
「こちらこそ……あなたがいて、迷い人は救われるのです」
「ふふ、皆さんの想いのおかげですよ」
“灯火を示す者”はそう言って、とびきりの笑顔を見せた。
END.