帰宅してポストを確認すると、淡い青色の封筒が入っていた。
誰からだろうと取り出して見てみる。
宛先は俺になっているけど、肝心の差出人の名前は書いてなかった。
きちんと切手は貼ってあるものの、何故か消印がない。
――気持ち悪いな。
とりあえず部屋まで持ってきた手紙を、開けるのに戸惑う。
そのままゴミ箱に捨てようとした――けれど、俺は指を離すのに、
一瞬だけ躊躇ってしまった。
きっと、封筒が俺の好きな青色だったからだ。
顔をしかめていると家の中に電話の音が鳴り響く。
両方面倒くさく思いながら封筒を上着のポケットに押し込んで、
俺はさっさと電話を取った。
受話器向こうの焦った声に息がつまった。
乱暴にドアを開くと、担当医の先生が固い表情で振り返った。
ゼロを示した機械が沈黙している。
先生は何事かを俺に言ってから、看護婦と一緒に病室を出て行った。
ゆっくりとベッドに近寄ってみると、妹が気に入っている
青いパジャマを着ていつものように静かに寝ている。
いつもと違って、胸が動かない。
愕然とする俺の耳に、カサリと小さな音が届く。
いつのまにか白い床の上に、ひとつ、青色の封筒が落ちていた。
――それで、俺は誰からの手紙なのか分かった。
小さく震える指で開封して一枚の便箋を引き出すと、
そこには見慣れた文字が並んでいた。
『分からずや、なんて言ってごめんね。でもお兄ちゃんが誇りに
思ってる仕事は、私も夢だったの。だから許して下さい』
自分もパイロットになると言い出した妹。
とても大変だからと反対した俺。
大勢の命を乗せて飛ぶ俺が、どうして家族一人を。
「そらっ……!」
『お兄ちゃんの飛んでる青空が好きだよ』
END.