忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

導かれた世界のその後





私はこの世界へ、時計ウサギに導かれた。

――間違えないでもらいたい。
私は今まで水色のエプロンドレスを着たこともなければ、
金髪碧眼を持つ外国人でもない。
その日までは、ただの普通の学生だったはずなのだ。

夢に見たのは服を着込んだ一匹のウサギ。
タキシードじゃなく、普通のパーカーとズボンだった。
手には銀の懐中時計をもってた。
唖然としている私を前にしながら、ちらりとその青い瞳を
時計に向けつつ、ウサギはこう言った。

『僕と一緒にいくの? なら早くしてね』

夢だからと、一つ頷いたのが私の運のツキだった。
目が覚めればそこは異世界。
魔法が存在する知らない世界だった。





「アカネ、時計ウサギに会ったってほんと?」

ふいに。
真面目な声が振ってきて、レポートを書く手を止める。
顔を上げてみると、丸眼鏡をかけた金髪のクラスメイトが、
少し興奮したような表情でそこにいた。
クラスメイトというより、友達の方がしっくりくるかもしれない。
彼の後ろに、笑みを浮かべたもう一人の友達がいた。

「……クラフィア?」
「ごっめーん! だって知らないとは思わなくて、つい」

悪気のない面白がっているというのが見え見えだ。
彼女をじろりと見やってから、彼に振り向く。

「……うん、まあ」

本当は私が通うこの魔法学校に、私がこの世界に来てしまった
その理由を知らない人は、まず誰もいないと言っていい。
何せ“時計ウサギ”は世界的に有名なのだが、
本当に出会ったという報告はごくごくわずかしかないらしい。
だから、私の噂も本気では信じてない人が多いのだ。

「だとしたらすごい!! 本当に時計ウサギ――あ、本当の名称は
 “クロニカル・ラビテッド”って言うらしいんだけど、
 僕にも会える可能性があるんだね!!」

その言葉に驚いて、私は思わずきょとんとする。
クラフィアはさもなれているかのように、平然としている。

「あの、ジオン?」
「ありがとうアカネ! 君も会えたら僕も会える!」

どこからそんな根拠が。

「時の狭間でウサギと握手!」

どこかで聞いたセリフだ。
友達ではあるものの、巷で天才と呼ばれている彼の、
ハイテンションぶりについていけなくてちょっと哀しい。
しかも微妙に、天然とかの部類が入ってる。
私は困ってクラフィアを見ると、彼女はもう我関せず状態。
勝手に私のレポートの続きを書いてるのは何故。

はあ、と息をついた。
まあ……二人とは学校一の友達ではあるけれど……
ここに転入して同じ班に入れられたのが運のツキ。

そんなことを思っていると、ジオンのテンションがふと落ちた。

「……でも僕が時計ウサギ――あ、本当は」
「クロニカル・ラビテッド?」
「そう。見つけたとしたら帰るん……だろう?」

何か妙な間があったけど、気にしないでおこう。

「……さあ……」

私は首を傾げて答えた。
私はあのウサギに連れられて、この世界にきた。
ここでは別に辛いことも嫌なこともなかったけれど……。
むしろ、元の世界に帰してくれるかも分からない。

「じゃあ、やっぱりとけ」
「クロニカル・ラビテッドって言えば、ジオン」
「……を見つけても僕はどうする事も出来ないんだ、ごめん」

クラフィアに茶々を入れられつつ、ジオンは眉を潜めた。
良く意味が分からなくて不思議そうな顔をする私。
ジオンはそんな私を見て、力なく言った。

「僕が研究とか調査をしたいのにも時間が取られてしまうし、
 アカネが好きだからここにいてほしいし」

それは友達としての Like だろうか。
普通に言ってくれるのは、嬉しいに変わりないんだけれど。
するとそれを聞いていたのか、クラフィアが立ち上がる。
そしてがしっと、勢いよくジオンの頭を掴んだ。
……ああクラフィア、女の子なのに男らしい。

「ちょ、何するんだい、クラフィア!?」
「このお馬鹿! あんぽんたん! ちゃんと言いなさいよ!!」

そのまシェイクされそうな勢いに、ジオンはさっと離れる。
おお、中々やるねデスクワーク。
今更だけど、ここ図書室だから少し静かにしよう。

「アカネ!」
「はい?」

いきなり名前を呼ばれて私は返事をする。
するとジオンが目の前の出てきて、じっと見てくる。
……なんなんだろうか。

「時――あ、いや、クロニカル・ラビテッドを僕が見つけても、
 やっぱりアカネに知らせることは出来ないんだ。僕には
 どうすることも出来ない。ごめん」

それは、先ほども聞いたけれど。

「あー……僕はアカネにここにいてほしいんだ。好きだから」
「好きの意味は Like ……」
「違う。 Like じゃなくて Love の意味」

そういえば、ここって異世界のはずなのに、
何故か英語は通じるんだよね。
かあっとジオンの白い顔に赤みがさして面白い。
私はしばらくそれを見た後で、普通に答えてあげた。

「ありがとう。好きだからここにいるよ」
「え……あ? す……何?」
「好きだよ、ジオン。 Like じゃなくて Love で」

次の瞬間。
ジオンの顔がもっと赤く赤く染まったのを見た。
私はそれを見て笑みを浮かべる。
クラフィアが 「ひょーひょー」 とはやしたてる。
貴女いつの時代の人ですか。

まだこの世界は面白い。
次の世界へ行く理由はないよ。





END.

拍手[0回]

PR