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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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蒼紅 0

プロローグ




ケータイの短縮2番を押して、相手が出るのを待つ。
部活が終わった今の時間帯なら、同じく部活をするあいつも、
それほど忙しくないだろうと考えたからだ。
予想は当たっていて、2回のコールで通話状態になった。

『もしもし、姉?どうしたの?』
「あのさ、今日はこのあとに生徒会の予定が入ってるから、
 ちょっと帰りが遅くなるんだ。悪いけど、亮一と先生に
 言っといてくれないか? 朝すっかり忘れててさー」
『先生は分かるけど、リョウにも? ……あ、また約束したのね。
 うん、分かった。生徒会、頑張ってね』
「んじゃ、頼んだ。気をつけて帰れよ」

短い会話を終えてケータイを切る。
さっさとバックにしまい込んでから、仲間を振り返った。

「お疲れっしたー♪」

意地悪くにっこり笑っていってやると、まだ片付けしてた奴とか
着替えてる奴らが俺に答えた。

「ああ、お疲れ。また明日な」
高橋ー!次は絶対に負けないからな!!」

前者のおおらかな声が先輩たち、後者の嘆く声が同級生たち。

それは、俺の所属する陸上部内での他愛のない遊びの一つ。
部活が終了したあと、その日測定した中で各自の最高タイムが
マネージャーの口から全員の前で容赦なく発表される。
そして全てさらされたタイムの、下から数えて三番目までの奴らに、
部室の鍵当番と後片付けを任せるというものだ。

ちなみにこれは、パシリとかから考えついたものじゃない。
こうしてちょっとでも遊びっ気の入った勝負ごとにしてしまえば、
練習試合や月末のタイム測定日などではなくても、普段から
部活動の士気が上がるからだと、去年のキャプテンが独断で
発案したらしい。

うん、とっても健全じゃないか。

そして俺は、この遊びを一度も負けたことがない。
これはちょっとした俺の自慢っ!
ふふん、駅伝などでも有名な諸兄方にはまだまだ適わなくとも、
俺の俊足は毎日磨かれてるんだからな。

負けた奴らに悪戯な笑顔で手を振ってやると、ものすごく
悔しそうな顔をされる。
扉を閉めてから腕時計を見て、俺は少し急いで校舎に向かう。
うーん……会議ってどうなったんだろう。



必要な書類と筆記用具を持って生徒会室へ急いでいると、
少し先に見知った背中が歩いているのを見つけた。
俺はすぐに駆け寄って、明るく声をかける。

「会長? テニス部ってもう練習が終わってたんですか?」
「ああ、高橋か。今日は竜崎先生が昼から出張に行かれていてな、
 俺たちはミーティングだけで終わったんだ。……今日も負け無しか。
 順調に勝ち越しているな」

振り返った会長は淡々とそう語る。
それでも、俺の晴れ晴れとした顔を見て優しく言ってくれる。
皆は会長の笑顔なんて見た事がないって言ってるけど……
こういう時とか、笑ってるんじゃないのかな?
まあ……確かに俺も、表情的にはあんまり分からないんだけどさ。

「もっちろんです!! 何せ、来年のキャプテン狙ってますから!!」
「そうか……油断せずに頑張れよ」
「はい! あ、会長、会議ってどうなりました?」
「特に問題なく終わった。あとはこの書類をまとめるだけだ」

そうやって話しているうちに、俺たちは生徒会室についた。





――変わることがない、俺の日常だ。

目覚ましに起こされて、当番制の朝食を作って、
妹の夕菜と家を出て。

普通に勉強して、友達と騒いで、楽しく部活して、
真面目に書記を務めて。

急いで帰って、たくさん夕飯食べて、ちょこちょこ宿題して、
さっさと明日の準備して、ゆっくり風呂に入って、ぐっすりと寝る。

これが、俺の日常。

別に変わりたいとは思ってなくて――。
でもどこかで、違う世界を見てみたいと思ったりして。
……現実にしてみたいとは、思ってなかったんだ。
だって俺は、この日常が好きだったから。





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