その日、ハリーは朝からご機嫌斜めだった。
……というよりは、数日前から徐々に機嫌が悪くなっていき、
ようやく人目にも機嫌の悪さが現れてきたのだ。
レギュラスは眉をひそめ、首を傾げる。
ハリーは我侭を言うことはあっても、子供らしい可愛いもの。
セブルスやレギュラスが聞き入れられないほどの我侭ではないし、
それによって癇癪を起こしたり、機嫌を損ねたりもしない。
2人の欲目で言うとすれば、とても良い子なのだ。
そんなハリーが、理由も言わずに機嫌を悪くしている。
我侭や癇癪を起こすこともない、いつもの態度をしているものの、
いかんせん常時むすっとした膨れ顔をしている。
1人ソファに座って、むっつりと絵本を広げていたハリー。
読み終えて横に置いた所で、レギュラスはゆっくり顔を覗きこむ。
いつもならハリーはしっかり人の目を見るのだが、今は機嫌が
悪いせいか節目がちになり、視線がずれている。
『ハリー? 一体どうしたんです』
「……なにも」
『どこか調子でも良くないのですか?』
「……わるくないよ」
『そうですか……』
身振り手振りを加え、感情そのままに話すハリー。
今日はむすっとした顔のままで、淡々と小さく答えるだけ。
ますますレギュラスは困惑し、心配になってしまった。
『ハリー、そろそろおやつを食べましょう。今日はドーナツですよ。
いつも紅茶ですが、今日は特別に甘いココアにしましょうね』
「……にいさまも?」
『そうですね、今日は僕も一緒にココアを飲みましょうか』
「……うん」
こくり、と頷くハリー。
その動作にレギュラスは、ほっと安堵する。
ハリーと出会った頃は、消えかけていた幽体であったレギュラス。
しかしだんだんと自我や魔力などを取り戻してきたせいなのか、
今では少し力を使えば物に触れたりすることが出来るようになった。
セブルスもその様子を見て、レギュラスがもう少し力を取り戻せれば
姿さえも具現化出来るのではないかと予想している。
しかしレギュラス自身、自分が何をもって “力” というものを
取り戻しているかが分からないため、具現することが出来たとしても、
それは後々のことだろうと考えている。
『ちょっと待ってて下さいね』
レギュラスがハリーの頭を撫でて、立ち上がる。
さっそく準備をしようとキッチンの方へと行きかけると、ふいに、
コンコンと軽く固い音がした。
目を瞬かせて窓の方を見ると、窓辺にふくろうが1羽佇んでいる。
すると急に、ハリーが顔色を変えた。
「にいさま、ぼく、おやついらない!」
『え、ハリー!?』
「おへやでおひるねしてくるっ」
ハリーはそう言い残し、レギュラスを置いてリビングから出て行く。
驚くレギュラスはおろおろとハリーの背と、窓のふくろうとを見やる。
今すぐにでもハリーのことを追いたいのだが、小包を持った
ふくろうをそのままにしておけない。
何せ、小鼓の宛先はセブルスであるはずなのだ。
中に何か大切な材料などが入っていたら、放ってはおけない。
「どうした?」
騒ぎを聞きつけたのだろうセブルスが、リビングへ入ってきた。
レギュラスは安堵に肩を落としてセブルスにふくろうが
来たことを告げると、今度は急いでハリーの部屋へと向かった。
「ああ……いつものことなのだがな……」
その夜、ハリーのが寝たあと。
ハリーの機嫌のことについてレギュラスがセブルスに問うと、
あっけないほど簡単な答えがセブルスから返ってきた。
レギュラスは驚きつつ、問い続ける。
『いつも?』
「……昼間のふくろう、どこのものか分かるか?」
『いえ……どこか見たことがあるふくろうだとは思いましたが
……さすがに差出人までは分かりませんよ』
「見たことはあるはずだ。あれはホグワーツのふくろうだからな」
『ホグワーツ!』
セブルスの言う通り、見たことがあるはずである。
学生の頃、親や友人への手紙を運び、届けてくれたのだから。
『ということは……』
「ああ。新学期のことについて、校長からの手紙だ。こうして
ふくろうが来たあと、私は必ず忙しくなる。それでいつもこの時期に
ハリーが拗ねているのだ」
セブルスの言葉は淡々としつつも、どこか嬉しげなものが
含まれていた。
『ホグワーツが始まったらどうするのです?』
「いつもなら、ハリーを仕方なく知り合いに預けていたのだが……
今回からはお前がいるのだから、預けなくとも構わんだろう」
『大丈夫ですか? 不審に思われたり……』
「……渋る姿が目に浮かぶ」
『?』
くくっと楽しそうに笑うセブルスに、レギュラスは首を傾げる。
とりあえず、ハリーの機嫌が直るのはもうしばらくのことに
なるらしい。
NEXT.