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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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蛇親子 6





ハリーはすやすやと、眠っていた。
ぱちぱちと燃える暖炉の傍、柔らかなソファの上。
おやつを食べて絵本を読みながらセブルスの帰りを待っていたのだが、
お腹がいっぱいなことと、暖炉の暖かさで眠くなったらしい。

ふいに、コン、と音がした。

窓の外で大きな掌がひらりと出ているかと思えば、その掌は何度か
指の節を使ってコンコン、と軽くガラスを叩いている。
部屋ではハリーが眠っているだけで、他には何の反応もない。
掌はガラスを叩くのを止めて一度引っ込むと、杖を握った掌が現れた。
そして今度は杖先で、コン、と叩く。



カチン。



鍵が開く小さな音を聞き、掌は引っ込む。
またもや素の掌が現れると、ゆっくりゆっくり窓を開いていく。
窓が半分まで開くと、掌はそのまま部屋の中へ入り込み、腕が現れる。
そしてにょきっと頭を出したのは、1人の男。
男は切れ長の目をそろりと動かして、部屋の中を見回す。
誰もいないことをしっかり確認した男は、物音ひとつ立てずにするりと
部屋に入りこんだ。
窓を開けたままにして、男はそっと静かに進んでいく。

そして、男はソファの上で眠るハリーを見つけた。





『ハリー、待ちきれなくて眠ってしまったかな?』

レギュラスは一人、キッチンでハリーご所望のホットミルクを
作っていた。
未だに体を具現化することまでは出来ていないものの、ちょっとした
家事であれば苦もなく出来るようになっていたので、ハリーの
おやつを用意したり、セブルスの研究室の掃除などはレギュラスの
仕事になっている。

香りたつ湯気に掌を透かして、レギュラスは微笑む。

『……あとは……』

ひょいっとレギュラスが指先を動かすと、スプーンがふわりと
浮き上がる。
続いて小瓶の蓋が開くと、スプーンがそこから蜂蜜をひとさじ掬い、
マグカップの中に落として優しくかき混ぜる。
ハリーお気に入りの、蜂蜜入りホットミルクが出来上がった。

『これでよし、と。……そろそろ先輩も帰ってくる時間だから、
 紅茶セットの用意もしておかないと、――っ!?』

マグカップをトレーの上に置きながら時間を確認していたレギュラスは、
ふいに家の中に入り込んだ異質な気配に気づき、はっと目を見開いた。

『まさか、さっきまでは何の気配も――ハリー!』

レギュラスはキッチンを飛び出した。

詳しい事情をあえて訊いていなかったレギュラスだが、分かることはある。
学生の頃から、決して傍に人を置くようなことをしなかったセブルスが、
何故幼いハリーを育てるような決断をしたのか。
記憶の中にある顔が酷似している男性と、同じ色の瞳を持つ女性。
セブルスにとても関わりがある2人。

闇に狙われた、2人。
彼らが狙われているならば、ハリーは。

――させてたまるか!



『ハリー!! 無事ですか!?』

焦るレギュラスはドアを開ける力を使う手間さえ惜しく、いつもはやらない
壁をすり抜ける無礼で、ハリーが1人で待っていた部屋へ飛び込む。

「あ、にいさま」

くるりと振り返るハリーには、どこにも怪我はないようだ。
むしろ、浮かべる笑顔からは機嫌が良いようい思える。
そんなハリーにレギュラスが安堵するのも束の間、思わず唖然として
ハリーの下にいるものを凝視する。

小さなハリーの数倍はある、黒い大きな犬の形をした獣。

死神犬というものはこの獣だろうかというほど、迫力がある。
だがその獣の状態は、牙を剥いて襲ってこようとするわけでもなく、
ハリーを背に乗せてゆったりと闊歩する、いわゆるお馬さん状態だった。

獣はハリーの声で、部屋に現れたレギュラスに気づいたらしい。
さっと振り向いた獣はレギュラスの姿を目にして、硬直してしまった。

その場に流れる静寂。

驚いて言葉が出ないレギュラスと、ただただ硬直する獣。
永遠にこのままかと思いきや、ハリーがにこにこと浮かべる笑顔で
我に返るのが早かったレギュラスが、ようやく怪訝そうに眉をひそめた。

『……ハ、ハリー? あの、この……動物は……?』
「おともだち!」
『と、友達? 先輩も知ってるんですか?』
「うん、とうさまもしってるよ」

こっくりと頷くハリーに、レギュラスはますます困惑する。

『ええっと……』
「あ、なまえはね、しりうすっていうんだよ!」

――名前は……何だって?

ハリーが口にした名前は、レギュラスにとって妙に懐かしく、
とても聞き覚えのあるような名前だった気がした。
頭が真っ白になるレギュラスに、獣が困ったように目線を逸らす。
それに対し、今度はレギュラスが硬直する。

今度の静寂は、セブルスが帰ってくるまで続いた。





NEXT.

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