(戦無2/幸村)
視界が悪い―――。
「は……っ……っ………く……っ!」
霞む目を悠長に閉じている暇はない。
周りを囲む殺気を感じて、身体を動かす。
影ではなく、気配に向かって勢いよく駆け出す。
きつく握りしめた槍先を横に一閃する。
上がる悲鳴を背に、次の気配へ。
「はああああああ!!!!!」
空気を欲しがる身体が、激しく両肩を揺らす。
流れゆく汗が頬を伝って地へ落ちる。
まだ、倒れるわけにはいかない。
何としても、この場を守らねばならない。
何としても、友の所へ駆けつけねばならない。
「貫く!」
私はもう二度と。
仲間を失うわけにはいかないのだ――!!
ヴィシィイイイイインッッ!!
虚空を切り裂いて振りぬかれたのは、黒革の鞭。
二本が同時に、軽やかに踊る姿を見るのはいつぶりか。
気配の向こうで彼女が叫んだ。
「――援軍到着!! 元宮軍、突撃ィッ!!」
叫んだ声に、彼女の後ろから従う呼応と気配。
押し寄せる味方の軍旗と、上がりゆく士気。
彼女は私と背中合わせに立った。
「……予定より遅くなった、ごめん」
「いいえ。私などに援軍など……ありがとうございます」
彼女が笑んだ。
「さ、早く三成たちの所に行こう、幸村」
「ええ。そうしましょうか、あきら殿」
「――元宮あきら、推参する!!」
「真田幸村――いざ参る!!」
高まっていた鼓動はさらに加速する
(上田城攻防戦)