(戦無2/政宗)
――最初に出会った時から、あやつは変だった。
魔王の嫁や、寡黙な忍などではない娘。
まるで男のような、男そのものの格好をしておった。
けれど己の性を隠すわけでもなく、とても飄々としていて。
掴み所がないと思った。
猿にくだった直後、わしに一番に話しかけてきおった。
わしを見下すわけでもなく、試すわけでもなく。
ただヘラヘラと笑いながら自ら己の名を名乗って。
利きの右手を差し出した。
誰にも物怖じせぬ姿は好ましいと思った。
上司の猿や三成にも、己の意見を真っ向から突きつけて。
本来ならば、首を斬られてもおかしくないこと。
それをも許されるのは、あやつだったからかもしれん。
だが、わしは知っている。
あやつの瞳の奥底には、闇が潜み息を殺しておる。
絶対に表にはせぬ。
しかし時折、その陰はゆらめくのだ。
だからだと思った。
だからあやつはわしに構っているのだと。
きっとあの闇は、わしと同じ闇。
そしてわしにとってのめごから与えられる安らぎは、
あやつにとっての仲間と同じものなのだろう。
わしはあやつの過去を知らぬ。
誰に聞いたとしても、あやつの過去を知る者はおらん。
あやつに関する噂によれば、ある日、突然現れたという。
確かに、あやつなら不思議ではないのかもしれん。
――染められてゆくのだ。
わしも、仲間も、日の本も、空も、海も、取り巻く全て。
あやつにそうして染められていくのだ。
もう前の色を気にしていられぬほど、染まる。
「ちっびーむねっ!! 何してんの? あ、桃食べる?」
「あきら……この馬鹿めが!! その呼び方は止めぬかとわしは
何度言ったら……」
「ちび宗はちび宗ー」
深々と深々と、君の色に染められて
(小田原城戦)