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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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慶次-1




「……うん、美味いっ!天希、またまつ義姉ちゃんの味に一歩
 近づいたんじゃねえか?」
「ふふふ、そう思うか? だったら嬉しいな」
「もちろんです。天希はいつも頑張って覚えていますものね」
「さすがに上達が早いなあ、天希は」

まつさんに匙加減を教えられつつ、一緒に料理を作って。
そしてまつさんと利家さんと慶次と食べるのは、すでに日課だ。

私がこの前田家の居候になって、ずいぶん経った。
こうして私が居候になったのには理由がある。
とはいえ、大層な理由ではないのであるが……。



あてもなく、ふらりふらりと各地を巡って旅をしていた私は、
とある森の中で迷子になってしまった。
……元々、方向感覚に鈍い所があることは自分でも認めている。
とほほ……情けなや……。

道を探しているうちに太陽も落ちて辺りは暗くなってしまい、
仕方なく野宿をしようかと考えていた時。
背後に感じたものは、いくつかの気配だった。
それは、どうにも物騒な雰囲気が漂う。

――夜盗か。

この状況では、そうだとしか考えるしかなく。
地の利ではこちらが不利と考え、なるべく無防備に振舞う。
近くまでおびき寄せて、一気に突いた方が楽だと思ったからだ。
今ならあの夜盗は、素人も素人だと分かるのであるが……。

とりあえず私が思った通り、背を向けた瞬間、木々の間からこちらへ
飛び出してくる数人の男たち。
私が札を手に応戦しようとすると、いきなり男の一人が倒れる。
一人倒れ、また一人倒れ。
数分もたたないうちに全員が地に伏した。

「大丈夫かい?」

木々の間の暗闇から現れたのは、とても体格の良い男。
大きな刀を肩にかつぎながら、私のことを見下ろしてきた。
本来ならば、今度は男に警戒するかもしれない。
だけど、私は驚きはしたものの警戒なんてしなかった。

何故なら、男にまとうは精悍と快活。
それを知ってしまえば、悪い男ではないことはすぐに分かる。

「助けてくれてありがとうございます」
「いや、俺はこの近くをたまたま通りかかったってだけだからさ。
 礼なんていらないよ。それにもう少し来るのが遅かったら、
 さっさと片付けてたんじゃないかい? それで」

後ろ手に隠し持っていた札を指摘されて、目を見開く。
同時に、笑いがこみ上げる。
くすくすと笑うと、男は不思議そうな顔で首をかしげる。

「分かっていながら助けるなど……そなた、物好きだな」
「まあ、女の子には優しくしないとな」
「そうか。では、ますますありがとうと言うべきだ」

そうして慶次と打ち解けた。
私が迷子だと知ると、野宿は危ないと顔をしかめ、森を抜けた近くの
前田家へ連れて行ってくれたのだ。
慶次の話を聞いたまつさんと利家さんのご好意もあって、私は前田家に
一宿することになった。
お礼にとまつさんの料理なんかを手伝ったりもして。

夕餉の時、私がずっとあてなく旅をしていたことを知った三人はここに
住めばいいと、どーんとした勢いで私に言ってきたのだ。
私はあまりの勢いに慌ててすぐに断ったけれど、まつさんと利家さんが
押しの一手を打ってきたりして、結局断れず、前田家の居候となった。



……思い返すほどに、理由が理由だから苦笑いになる。
だが、身の知れない人を居候させるとはすごい懐の深さだ。
その代わり、まつさんと利家さんの夫婦愛を見せつけられるのだが。

つらつらと考えていると、利家さんが酒瓶を取り出した。

「さあ天希! 飲もう!」
「え? ……ああ、お酒ですか?」
「うむ! 天希とはまだ晩酌したことがないと思ってな!」
「それでは、お猪口を持ってまいりますわね」
「あ、まつ義姉ちゃん、俺も!」
「はいはい」





――俺は縁側に座って星を眺めながら、酒を口に運んでく。
別に家の中にいて利やまつ義姉ちゃんや、天希たちと一緒に楽しく
にぎやかに呑んでもいい。
だけど今日は、何だかこうやって呑みたい気分だった。

そういえば……。
天希と初めて会った時もこんな星の多い日だったよなあ。

星を見ながら帰ってた時に、何だか森の方に嫌なものを感じた。
そんで森の中に入って見つけたのは、夜盗と一人の女。
夜盗はもちろん女のことを狙っていたけど、女だてらに一人旅らしく、
まったく怖がってもいなかったし、そこそこ強さも見て取れた。
とはいえ見て見ぬ振りも出来るわけもなく、俺はお節介だと思いつつも
夜盗を全員気絶させた。

驚いたように振り向いたあいつは、すごく強い瞳をしてて。
俺は少しだけ驚いたんだよな。
助けてくれてありがとうって笑って言われた時は、いつもよりも何だか
嬉しかったような気がする。
まあ、迷子だったってのには笑ったけどな。
恥ずかしそうにしていたのを思い出して、笑みが浮かぶ。

酒を口元に運んだ。

「けぇーいぃーじぃー♪」
「ブハッ!?」

いきなり後ろから抱きつかれて、思わず酒を噴出す。
振り返ると目の前に天希の顔があって、どくんと心臓がなった。

……ん?

「あははぁー、けぇーじぃー♪」
「お、おい……天希!? ど、どうしたんだお前!?」
「んー、どぉーもしないがぁー? いつもといっしょだぁー」
「はあ!?」

あきらかにいつもと一緒じゃねぇ!!
ふいに、俺が飲んでたのとは違う酒の香りがする。
香りの元は俺に抱きついて軽快に笑ってる、天希の方からだ。
……もしかして……酔ってる、のか?

酒に弱かったのかこいつ!!!

「むぅうー、どぉーしたのだぁー? けぇじぃー」
「ど、どうしたじゃねぇっ」
「んぅー?」

俺の肩に顎をちょこんと乗せてしゃべっているせいか、軽く舌足らずな
口調で話す声がそのまま俺の耳に入って、じんじんと熱を持って響く。

……おいおいおい……!
何か知らねぇけどこれはまずい気がする。

利とまつ義姉ちゃん、こりゃぜってー押し付けて逃げたな。

「けぇーじぃ」
「何だよ。ってかちょっと離れろ、天希

体をまったく動かせず、首だけで後ろを向いて話しているのは、
そろそろ筋が痛くなってくるし、疲れてくる。
すると天希はこくんと頷き、素直に俺から離れた。

――と、思ったら。
今度は俺の膝の上に座り、前から抱きついてきやがった。

こ……。
こいつは泣き上戸よろしく、抱き上戸でもあんのかよ!?
だが、首に腕を回してにこにこ笑う天希は何ていうか……。

そして天希は、大爆弾発言をした。

「けぇじ、あいしてる♪」

思考が止まった気がする。
お猪口が手から滑り落ちて床に落ちて割れた。

ああやべ、まつ義姉ちゃんに怒られる。
そう思いつつも、何故か俺の心臓はバクバクと鳴り続ける。

……酔ってるだけだ。
天希は酔ってるからそんなことを言ってるだけだ。
というか、ちょっと待て……何で俺は天希に緊張なんてしてんだ?

「……ね、けぇじは……? けぇじは、わたしのことすきか……?
 わたしのことを、あいして、いるか……?」

「う、天希……」

じっと俺の目を見てそう聞いてくる天希
だけどすぐに、とろんとした目付きに変わったと思ったら、こてんと
落ちるように寝ちまった。
しかも、俺にしっかり抱きついたまま。

寝ちまった天希を見て、俺はため息をつきながらゆっくりと片方の
手の平で顔を隠す。

ちらりと、天希のことを見下ろしてみる。
俺に抱きついてすやすやと無防備に眠る、華奢な少女。
はあ……やべぇ、こりゃあ本気だ。

「なあ、ねね……俺、また恋してもいいかなあ……?」



結局、天希が離れないまま。
仕方ないからそのまま俺の部屋に連れてって、一緒に寝た。

そんで次の日、俺の腕の中で目が覚めた天希は硬直した。
そりゃ目覚めてみたら、目の前にあるのが俺の顔で、そんで自分から
抱きついてりゃあな……。
硬直した天希は真っ青な顔になって、次に真っ赤な顔になった。
そして、かなりぎくしゃくしながら俺の部屋を出てった。

……もしかしたら天希って覚えてんのかな……?
昨日の酔ってる間の記憶。





命短し、人よ恋せよ 淡き桜と恋の華

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