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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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佐助-1




「うあー、つっかれたー……」

足音はしなかった。
もちろん、それと同じようにして気配も。
心からの溜息をつくような声に、私は慌てて姿勢を正す。
カラリ、と戸が開いて、私が待っていたお人が顔を覗かせる。
そして私の姿を目にしたとたんに、動作が止まった。

「……!?」
「お疲れ様でした、猿飛隊長」

にこりと笑んで、私は驚いたままの彼に言う。
まさかとは思ったが……自分の部屋に私の気配があることに
まったく気がつかれなかったようだ。
――それほどまでに疲れていらっしゃるのだろうか?
だとすれば、ここに来ない方が良かったのかもしれない。

けれど、任務は任務。

帰ってきた時にどこを探しても姿が見えなかったものだから、
迷ったけれど先にお館様に報告を済ませてしまった。
隊長に任されたことでもあると、ここに来たのだけれど……。

やはり、報告は明日にした方が適切だったようだ。
自分の配慮の足らなさに辟易する。
溜息をつきたい所だが、今はそれも我慢しなければ。

「――はつね?」
「はい。真田忍軍がくのいち、はつね――帰還致しました」
「あ、ああ、うん……おかえり」
「はい」

私は方膝をつきながら、すっと静かに頭を深く下げる。
ああ……私は数週間ぶりにここへ帰ってこれたのだ。

守るべき城が見えた時より、お館様を前にした時よりも、こうして隊長の
前にいる時になってようやく帰還した実感が胸にわいてくるとは、
何ともおかしなものである。
けれど忍らしいとは言えぬこの感情も、ここにいなければきっと
味わえないものだろう。
――少しだけ嬉しくも思える。

「帰還って……いつ頃帰ってきてたの?」
「は、正午を過ぎたあたりでございます。……隊長はご不在で
 あられたようですので、私ごときの忍が失礼とは承知の上、お館様への
 ご報告を優先させていただきました」
「ああ、それは助かる、ありがと。正午っていうと……あーちょうど
 旦那にとっつかまってた時かもなー」
「そうでしたか」

ああ、幸村様とご一緒だったのか……。
それならばお姿が見えなくても仕方がない。

隊長は困ったように、ポリポリと頬を指先でかく。
ただ少しだけの動作にもこんなに安心している私がいる。
そして、その後に続くと予想した通りの言葉にさえも。

「っていうか、はつね
「はい?」
「その “私ごときの忍” っていう口癖は止めなさいって何度も何度も
 言ってるでしょーが、俺様」

彼は私が 『ごとき』 と口にすることに、良いお顔をされない。
けれど、どうしても私は口にしてしまう。
決して忍という仕事を恥じているのではない。
ただ、私の忍としての力がまだ足りないと思っているからだ。
己のことを、無駄に卑下しているわけではないというのに。

「ですが猿飛隊長……私ごとき、」
はつね

思わず苦笑のような声と癖がこぼれてしまった。
しかし、隊長はやはり良いお顔をなされない。

……私は何故こうも、間違ってしまったのだろう?

「止めなさいって言ったでしょ。禁止なの、禁止!」
「たいちょ、っ……」

本当は、私はちゃんと分かっているというのに。
忍が情報収集として身体を使うのは当たり前だから。
なのに私は、彼でないと嫌だと思ってしまう。
彼の深い口付けに思考回路が乱れていく。

「…………、」

彼は分かってそうしている。
私がそう思うことを知ってこうしている。
だから、こんなにも甘い。

「……さる、とび……たいちょ……」
「次に言ったら、戦場でもこれやるからね?」
「え」

ごろん

ふいにそんな音がして、正座していた膝に重みが加わった。
下に目線を移すと、愉快そうな表情の彼。
……先ほどまで私のことを上から覗き込んでいた状態だというのに、
いきなり寝転がる態勢になれるとは。

さらりと膝を撫でる、夕陽色の明るい髪。
真っ黒な髪をしてる私とはまるで正反対な色。
……羨ましいと、一度、正直にそう言えば苦笑されてしまった。

「猿飛隊長」
「ちがーうでしょー? はつねー?」
「…………佐助」
「良く出来ました。もちろん敬語もなし」

意地の悪いものではなく、心から佐助はにっこりと笑んだ。
もちろん……これもちゃんと分かっていてやっている。
その笑顔にどれだけ心が解けているのかを、知っている。

佐助はいつもいつも察している。
任務が終わっても緊張の抜けない私を。
任務を言い渡されるたびに、不安になる私を。
一日でも彼の姿を見ないと……恐怖を感じてしまう私を。

はつね?」
「何でしょ………何? 佐助」
「気づいてないと思うけど、お前だけじゃないからな」
「……え……?」

首をかしげる私にそっと手を伸ばす。
頬に優しく触れた指先と、温かみを帯びる瞳。

「俺ね、お前が近くにいないと、どうにも落ち着かなくて仕方ないんだよ。
 でもあんまり近すぎると、今度は抑えが利かなくなっちゃうのね、
 これが。俺は別にいいんだけど――はつね、覚悟できてないでしょ」
「あ、あの……、え……っ?」
「俺はわりと平気なつもりでいるんだから、はつねはそんな身構えなくて
 いいわけよ。今はこーんな風にしながら、俺をいやしてくれるだけで
 満足なんだからさ」
「佐助……」
「ったく、ちょっとの癒しがまさか熱に変わるなんて思ってなかったよ。
 ……俺様大誤算ってとこ?」

苦笑しながら私の頬を手の平で撫ぜる。
口調は軽くても、見つめてくる眼差しは真剣なもの。
そして頬に触れる指先は静かに、優しい。

「――悪いな」
「……佐助は……そうしてくれるから、私は大丈夫……。
 嬉しい、から……佐助とこうしてると癒されるから……」
「そう? それなら俺様大歓迎ー、なんてな」

貴方もまだ知らないでしょう。
どんなにこの時に、私の心が癒されているかを。

お館様にも、飛鳥様にも出来ない事を貴方が出来ること。
私の全てより貴方の全てが大切だということ……。
きっと、忍同士の恋など笑われるのでしょう。
水面の氷より割れやすく、溶けやすいと思われるでしょう。
本物だとは、言われないのでしょう。

それでも私はいいと言える、これでいいと頷ける。
戦後に、忍である者の運命など分からない。
だから今はこれでいいのだと。

「佐助」
「んー? 何、はつね
「愛しています」
「……うわー……はつねからそんなこと言われるのって、
 もしかして初めてじゃないか? っていうかそれ……今更言われると
 何か恥ずかしいもんだね……」
「すみません」
「謝ることじゃないでしょーが」

くすりと笑って。
それに静かに笑みを返して。

「俺も、愛してるよ」





貴方が癒されるのならば
この身を差し出そう

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