「ぅぉおおおやかたさむぅあああああ!!!!!!」
ドバキィ!!0
「ゆぅぅぅううきむるぁあああああああ!!!!!」
ゴスゥッ!!
「ぅおやぁあくぁたさぶぅぅああああっ!!!!!」
ベシィッ!!
「ゆぅうくぃぃぃいぶぅううるああああ!!!!!」
ズバァン!!
幸村様とお父様はいつもの殴り愛。
わたくしはそれを見ながら、縁側でゆっくりとお茶をいただく。
これはいつもの日課で、無くなることはない毎日の恒例行事。
初めて見る方は唖然とするか、呆然とするか。
その後は痛々しく、とても見ていられないほどの激しさ。
とはいえ、わたくしや軍の皆様は見慣れている光景ですけれど。
これから戦だという時にもやっているのだから、当然ですわ。
それにしても幸村様は、今日も高く飛んでいきすわね。
ふふふ、お父様も快いくらいに遠く飛んでいきますわ。
さすが最強師弟と呼びなわされるお2人!
『紅虎の姫』と呼ばれるわたくしも、負けぬよう頑張らなくては。
そうでなければ、お2人について戦ってなどいけませんもの。
「飛鳥姫ー」
ふいに、後ろから声をかけられる。
これもいつものことなので、わたくしはあまり驚かない。
「お帰りなさい、佐助」
「俺様、ただいま戻りましたー。大将に報告に来たんだけど……
これじゃ、もうちょっとしてからでも良かったかもしれませんねー」
「そうですわね。……でも、もうすぐ終わりますわよ」
「あ、ほんとですか? それなら良かったー」
ゆるーく笑いながら、わたくしの隣に腰を下ろす忍。
武田忍軍を束ね、幸村様の護衛をする戦忍・猿飛佐助。
あまり見ない迷彩柄の服も、性格も、彼にはとても良く似合う。
けれど、もちろん彼の仕事を把握している。
わたくしは、決して深窓の姫君などではないから。
「ねー、飛鳥姫。俺も団子貰ってもいーです?」
首を傾げ 「腹減っちゃってましてー」 と佐助が指差すのは、縁側に置いた
大皿の上に積み重なるみたらし団子。
とろりとしたタレの甘い香りが漂う、とても美味しそうな存在感。
わたくしはくすりと笑うと、もう一つのお皿を指し出した。
「それは駄目です。こちらが佐助の分ですよ」
「え?」
「そしてこちらがお父様の分」
もう一つのお皿を見せる。
駄目といわれた分が誰のものか、佐助はすぐに理解する。
ちらりと殴り愛中のお2人の方を見て、楽しそうに笑った。
「なるほどー、だからそれだけ量が多いんですね」
「愛の差ですわ」
「言ってくれますねえ」
佐助がどこか茶化すように笑う。
「ふふふ……佐助の分は、あの子が用意したのですよ」
わたくしがお返しにと、笑みを含んで言う。
すると、珍しくも少しだけ目を見開いて驚いた顔をした佐助は、
どこか照れくさそうにしながら苦笑した。
「さすが飛鳥姫。俺様、お手上げです」
「ふふふ」
これをたかが、 “お団子の数” だと言わないで下さいませ?
これもわたくしなりの愛の形ですもの。
色恋にはとても純粋で、とても不器用なあの方への。
まあ、少しだけ遠まわしですけれど。
恥ずかしがってあまり色恋に関する言葉をくれないから。
『破廉恥』とまで言う事態すらないのだもの。
だから、少しだけ意地悪。
それでも愛は大きいから、お団子の量は誰より多いの。
「ん? おお、佐助。帰っていたのか」
「はい。つい先ほど」
しばらくして日課を終えた幸村様とお父様が、縁側へ来る。
佐助を見て、お父様は待ちわびたような顔をした。
「報告は後にしますか?」
「飛鳥と茶を啜りたい所だが、報告を先に聞こう」
「それではお父様、このお団子をお持ちくださいませ」
「うむ。行くぞ、佐助」
「御意」
お団子を受け取って、お父様と佐助様は行ってしまった。
残された幸村様はわたくしの隣にちょこんと座る。
……こういう所は無意識にしてくれるのだから、微笑ましいですわ。
わたくしはもう一つのお皿を差し出した。
「お疲れ様でした、幸村様。どうぞ」
「すまぬ、姫」
「……幸村様……?」
少し半眼で幸村様を見やると、幸村様は顔を赤くする。
けれどわたくしの目をじっと見つめながら、はっきりと言った。
「飛鳥」
「はい、幸村様」
「そ、某……未だに慣れぬのでござるっ……!」
「幸村様から言い出したことですわ」
2人の時は名前で呼びたいと、幸村様からおっしゃったのです。
わたくしはそれを聞いて、すごくすごく幸せでしたのに。
「そう……でござる、が。……は、恥ずかしいのでござる!!」
「それは仕方ありませんわ。幸村様は純粋な」
「ち、違いまする!」
苦笑してわたくしが言おうとすると、幸村様はそれを遮る。
珍しいことに驚いているわたくしの手を、そっと包み込まれた。
幸村様は先ほどよりも、顔が真っ赤に染まっている。
「そ、その……名前を呼ぶと……飛鳥が……とても綺麗な笑顔を
返してくれる……。某は、その笑顔を見ると……、飛鳥を、
だだだ抱きしめたい衝動にかられるのでござる……!!」
それだけ言うとわたくしの手をぱっと離された。
両手で顔を覆い、幸村様は 「某、破廉恥! 破廉恥!」 と繰り返す。
呆然としたわたくしは状況を把握して、顔が熱くなった。
確かに、幸村様に名前を呼ばれると嬉しくて笑ってしまう。
そしてそのたびに幸村様は……。
ふっ、と笑みがこぼれた。
「破廉恥ではございませんわ、幸村様」
「け、けれど某は……!!」
「幸村様になら抱きしめられたいと思いますもの」
「……ぬ、うっ!?」
「本心ですわ。嬉しゅうございます」
わたくしは嬉しくてたまらなくて。
お父様にも見せたことがないほどの微笑みを浮かべる。
顔を上げた幸村様はまた顔を赤くして、挙動不審になってしまった。
でも、もう変な遠まわしをしなくてもいいのですわね。
わたくしを幸せにする本音を聞けたのですから。
こんなに胸が大騒ぎしていますもの。
いつかは必ず、実行して下さいませ?
それまでお団子を用意しながら待たせていただきますわ。
「ぬう、幸村め……言ったからには抱きしめんか!」
「あららー、やっぱり旦那は純情ですねえ」
「あとでしっかり分からせねば」
「(これで明日も恒例行事があるなあ……)」
そうして確かに一歩ずつ進んできてくれる