※7月ハリポタ夏祭り・第二弾『蒼紅編』
「うあー、あっつい……」
「何を言っている。部屋の中は調整してあるだろう」
「いやそれはそうなんだけど……」
ベッドの上でぐだぐだ転がりながら俺がうめいていると、
サラザールがソファで本を読みながら呆れた声で返してくる。
いつもなら“だらけるな”と厳しく言われる所なんだけど、
ずっと続いてた試験がようやく昨日で終わったばかりだから、
大目に見てくれてるらしい。
うん、やっぱどこの世界でも試験って難しいよ。
季節は夏――初めて体験するイギリスの夏。
日本とは違ってイギリスは湿度が低いから、じめっとした嫌な
暑さじゃないおかげで、比較的過ごしやすく感じる。
それにホグワーツは、ある程度魔法で空調が整えられてるから、
我慢できないほどじゃないし、場所によっては涼しい。
もちろんサラザールの部屋もそうだ。
それでも、それでも。
窓辺から差し込んでくる陽射しは強くて、暑苦しい。
(俺、暑いのは結構、得意だった方なんだけどな……)
学校で部活やってた頃は得意だったと思う。
つーか、炎天下の中でも外で走るのが当たり前だったから。
だって俺は陸上部で、しかもエースだったから!
すごくやるせなくなって、ぼすりと枕に顔を埋める。
(……何か悔しい……やっぱ部活みたいな運動してないからか?
ってことは運動不足なのか、俺?)
確かに部活のように決められた時間、決められたコースで、
決められた限りの運動をこなすなんてこと、ホグワーツじゃ無理。
トレーナーもコーチもいないから、指導してもらうことも出来ない。
とはいえ、走ることは好きだから止めたくない。
そんな俺に出来るのは、自主トレのようなランニングと筋トレのみ。
……まあ双子と走り回るだけで、結構な運動量になるけど。
(この俺が運動不足で夏バテとかありえねぇし……! 夕菜は笑う。
キャプテンは硬直する。会長は自己管理に厳しいから怒るかもなー)
だらけた格好でマイナスなことを考えてたせいか、わりと本気で
運動不足を悩み始めた俺の思考は、昔の方に沈んでいく。
(昔だってこんな弱くなかったっての……俺より夕菜とか亮一のが
暑いのダメだった……あ、違う、院長が一番ダメだった!)
ふわりと浮かんできた面影。
穏やかで優しくて、俺たちを見守って育ててくれた院長。
お化けも虫も寒いのも全然平気だったけど、夏だけダメだった。
だんだん暑くなってくるにつれて、どんどん少食になって。
陽射しが強くなってくるにつれて、細くて弱い声になって。
(夏が来るたび、俺たち必死になったんだよなー。どうにかして
院長を元気にしようって。食べやすくて消化のいい食事とか、
庭に打ち水したり、グリーンカーテン作ったり。あと――)
ばっと顔を上げる。
「あれがあるじゃん!!」
「っ何だいきなり」
いきなり叫んだ俺に驚いて、サラザールが振り返った。
俺はベッドを降りながら急いで上着をはおる。
「アオイ?」
「サラザール、俺ちょっと出てくる。あとで迎えにくるから、
部屋で待ってて!」
「おい、アオイ。話を聞かないか」
「良いことだから大丈夫! 迎えにきたら校長室行くから!」
それだけ言い残して、俺は部屋を飛び出した。
「ほう……その良いことがコレなのじゃな」
校長が楽しそうにテーブルの上を見やる。
俺の隣に座ってるサラザールは、少し困惑気味だけど。
「これはフラッペ、いや、シャーベットかのう?」
「日本の夏はこれが定番! かき氷です!!」
「とても綺麗じゃ」
そう、俺が部屋から飛び出して厨房へと突撃していったのは、
ただひとえに目の前にある、かき氷を作るためだった。
院長が喜んでくれた夏のデザートは、このかき氷。
皆で作るのも楽しかったし、たくさんシロップをかけまくって、
一緒に食べることが本当に楽しくて、美味しかった思い出。
「校長のがレモン味のシロップで、サラザールはあんまり甘いのは
食べないから抹茶シロップ、俺のがブルーハワイ!」
「……抹茶とは何だ?」
「グリーンティーのこと。ほろ苦くて、ちょっと甘い味だ」
「そうか……」
校長はかき氷初めてだろうから無難なイチゴにするか迷ったけど、
レモン味の食べてることが多いからレモンにした。
サラザールはラムネ味と迷ったけど、冒険してもらおうと抹茶。
宇治金時にするのはさすがに止めておいた。
もちろん俺は、昔から大好きなブルーハワイ一択!!
「溶けちゃいますから、どうぞどうぞ」
「氷とシロップの色合いが見事で、崩すのはもったいないのう。
じゃが溶けてしまっては、それこそアオイに失礼じゃな」
「頂こう」
「俺もいっただっきまーす!」
スプーンで氷をすくって、ぱくっと一口。
「……んー!! 美味いーっ!! かき氷最高!!」
「うむ、冷たくて美味しいのう……! フラッペとはまた違った、
この氷のシャキシャキとした食感もまた良いものじゃ」
「そうでしょう?」
いやー、ホグワーツでもかき氷作れて良かったー!
このかき氷があれば、俺ホグワーツの夏を乗り切れる気がする。
俺は抹茶の感想を聞こうとサラザールの方を振り返った。
とたん、俺は思わず目を丸くする。
サラザールが俯いて眉間に指を当てていた。
「ぶっ、あっはははははははは! サラザール、サラザールお前、
キーンて! キーンってなったんだろ、あはははははははははっ!!」
「……大声で笑うな……」
じろりと睨まれるけど、サラザールはまだ辛そうにしてる。
絶対痛いんだ、一口が大きかったんだ、絶対そうだ。
こんなサラザールが見られるなんて、かき氷って本当に最高だ。
ひーひー笑いながらぱくりともう一口。
「……ぐっ」
「……ふっ」
固まる俺の様子に、察したサラザールが鼻で笑う。
……冷たいの食べてキーンってなるのは仕方ないよな……。
うん……思いっきり笑ってごめん、サラザール……。
そんな俺たちを眺めて、にこにことかき氷を食べ続ける校長。
まあ、校長とサラザールがが気に入ってくれたならいいか。
俺も久々にかき氷食べれて嬉しかったし。
やっぱり夏の暑さには、かき氷だよな!!
END.