※7月ハリポタ夏祭り・第一弾『孫世代編』
※連載よりも時間軸は前
※ハリーとテッドが出てこない
とてもとても長いように感じていた試験も、城に鐘の音が響いた時、
ようやく全ての課程が終了した。
これであとは、夏休みを待つのみだ。
教室から開放され、ぐぐっと背伸びをするアルバスの肩を、
誰かがぽんと軽く叩いた。
アルバスが振り返ると、そこに幼馴染のローズが立っていた。
ガヤガヤと騒がしくなる廊下を抜けて、2人は図書室へ移動する。
試験前までは勉強する生徒が多く閲覧席も埋まっていたのだが、
今となっては誰一人として寄り付こうとしない。
2人は慣れた足取りで奥に入り、向かい合わせで席を陣取る。
そしてカバンから羊皮紙と羽根ペンを取り出した。
「ローズ、2番の手順ってどんな風に書いた?僕はシンプルに
まとめて書いたんだけど」
「いいのよ。あの薬、細かく書く方が間違えやすいんだから。
何を使ってどんな順番で、っていうのが正確なら充分」
「やっぱりそうだよね」
「私、6番の問題が許せないわ。ひっかけ問題よ、あれ!」
「そのまま答えを書きそうになって、僕も少しだけ慌てちゃったよ。
問題文が分かりにくかったし」
羊皮紙に思い出せるだけの問題を書きつつ、意見を交えて試験問題の
答え合わせをしていく。
アルバスとローズは、今までも試験やテストが終わったあとは
こうして自主的に答え合わせをしていた。
元々は、難しかった所や悩んだ所を話していただけだったのだが、
いつのまにか本格的にやるようになってしまったのだ。
羊皮紙が文字や数字で埋まりそうになった頃、書架の間からひょいっと
少年が顔を出した。
「2人とも、やっぱりここにいたのか」
2人の友人であるスコーピウスは、苦笑して羊皮紙を覗き込む。
「熱中するのはいいけど、もう夜だぞ? 夕食も食べないで答え合わせを
続けるつもりか?」
「ええ?」
「やだ、本当!」
慌ててアルバスが腕時計を見やると、確かに夕刻を過ぎていて、
夕食が始まりそうな時間になっている。
スコーピウスに謝りながら羊皮紙を片付け、急いで図書室を出た。
お互いに試験の内容や夏休みの予定を話しながら、大広間へ向かう。
階段を降りていると、前の方に見知った後ろ姿を見つけて、
アルバスは声をかけた。
「リリー」
「あ、お兄ちゃんにローズお姉ちゃんに、スコープ先輩」
赤毛を揺らして振り向いたのは、アルバスの妹のリリー。
しかしその表情は戸惑っているようで、いつもの明るい笑顔はない。
3人はリリーの表情に首を傾げた。
「どうかしたのかい、リリー?」
「……さっき……ジムお兄ちゃんに会ったんだけど……」
「兄さんに?」
「何かね、大広間に早く来いって、楽しそうに……」
「ああ……また何か悪戯するつもりなのかしら」
リリーの言葉に、ローズが呆れたように肩をすくめた。
アルバスとリリーの兄であるジムことジェームズは、数人の仲間と
“ホグワーツ悪戯仕掛け人”の三代目を大々的に名乗り上げ、
ことあるごとに悪戯をしてはホグワーツを騒がせている。
そんなジェームズが、楽しそうに大広間に来いと言うだなんて、
何か仕掛けをしていると思って当たり前のことだ。
しかし夕食を取るには、結局大広間へ行かなくてはならない。
せめて自分たちには被害のないような悪戯ではにように祈りつつ、
新たにリリーを伴って大広間へと辿りついた。
おそるおそる大広間の大きな扉を開く。
すると、待ち構えていたような悪戯は発生しなかった。
むしろ大広間の天井が満天の星空となっている。
その星空の間を大きな光の帯が流れていて、あまりの輝きに、
ローズとリリーが感嘆の溜息をついた。
「4人とも待ってたよ! 遅いじゃないか!」
「兄さん」
入口で立ち止まっていた4人を見つけ、ジムが駆け寄ってくる。
そして、ぱぱっと4人の手に何かを押し付けてきた。
細く長方形に切られた手のひらほどの羊皮紙と、羽ペン。
「兄さん……何これ? っていうか、どういうこと?」
アルバスは怪訝そうに、楽しそうなジムを見やる。
弟の目線など物ともせずに、ジムはにっこりと笑った。
「良い質問だ! これは短冊と言って、願い事を書く紙だよ。笹に
願い事を飾る夏の風習が、東洋の方にあることを知ってね!
これは是非、僕たちもやるべきじゃないだろうかと思ったんだ!」
「願い事を?」
「そう。それに願い事を書いて、あれに飾るんだ」
ジムが指差した壁際に、大きな笹が数本飾られている。
すでに飾られたものもあり、今も生徒たちが短冊を結びつけている。
首を傾げていたローズがぽんと手を打つ。
「思い出したわ。それって七夕って行事じゃない?」
「さすがローズ、七夕を知ってたんだね! それなら早く書いた書いた!
ああ、ちなみに先生たちや父さん、テッドにも書いてもらってるから」
「父さんたちも!?」
「もちろんさ! こんな楽しいこと、父さんたちを抜きに出来るわけ
ないだろ? 早くしないと、飾る場所がなくなるぞ!」
4人の肩を順番に軽く叩き、ジェームズはさっさと走り去ってしまった。
まだいくつかの短冊と羽ペンのセットをその手に持っていたため、
配りきっていない生徒に渡しに行ったのだろう。
思わず唖然と台風のようなジェームズの背中を見送っていた4人だったが、
顔を見合わせてくすりと笑った。
「……いつもこんな悪戯なら、良いと思うのだけどね」
「まさか父さんたちも巻き込むとは思わなかった」
「ほら、ジム先輩の言う通り、飾る場所がなくなりそうだ」
「ね、早く書いて飾りましょ!」
頷いて、4人は笹の方へ走り出した。
短冊を配っていたジェームズはその姿を見て、もう一度笑う。
試験終わりには派手な悪戯をしようと考えていた。
それはもう、試験があったことなど忘れてしまうくらいのことを。
けれどこの行事を知った時、絶対これにするべきだと思った。
せっかく試験が終わった日なのだから、いつものように悪戯を
仕掛けるだけじゃなく、自分たちだって遊びの中にいたい。
願い事を書いて飾るぐらいなら、簡単に巻き込むことが出来る。
それこそ、悪戯に引っかかってくれない父親をも。
だから、父親の願い事を見てしまっても、悪くないはず。
ジェームズは、よりいっそう、笑みを深めた。
良く浮かべている悪戯なものじゃなく、それは幸せそうに。
自分たちを思いやる父親の願い事を胸に秘めて。
END.