―ルヴィリオ―
カツン
「浄化の救い」
ふわりと杖から溢れる光に、祭壇が照らされていく。
祭壇をくまなく照らし終えたあと、ルヴィリオは軽く杖先を振って
溢れていた光を消した。
やはり、今の魔法も同様に呪文など唱えていない。
ゼロスは未だに呆然としていた。
――一体何なんだ……この人間は……いや……それ以前に、
この男を “人間” と呼べるのか……?
“人間” ではないのならば何なのだろう。
“魔族” ならば自分も分かるはずだ。
“神族” ならば敵対する者としてまた然り。
――こいつは何なんだ……。
すっと目を細め、ゼロスはルヴィリオを見やる。
ルヴィリオは他に瘴気の残る所はないかと、祭壇を見回している。
そしてようやく調べ終えたルヴィリオは、ゆっくり立ち上がると
ゼロスの方へと振り向いた。
一瞬早く、ゼロスは素早く警戒していた目を戻す。
「さて。それじゃあ帰ろうか、ゼロス」
「……祭壇は壊さなくていいんですか?」
「どうやらさっきの魔族が不穏の原因だったようだからね。まあ、どっちにしろ、
もうここに村人が来ることは多分ないだろうし……私の方から
“全て終わりました” とでも言っておけば、この件は大丈夫だよ」
「そうですか」
笑ってこっくりと頷くルヴィリオに、ゼロスは静かにそう答えた。
そして出口へと戻る彼のあとについて、また歩き始める。
――相手が魔族と分かった以上容赦はしない――
ふと、その言葉にゼロスは引っ掛かりを覚えた。
釈然としない。
戦いの中、ルヴィリオという者に対して、結局の所は感情の乱れを
感じられなかった。
ただその言葉の中にだけ、何かを感じた気がする。
―― ……ただの魔族嫌いか、魔族に恨みを持つのか。
何せ、あれが本格的に始まる寸前なのだ。
高まる瘴気にレッサーデーモンなどは頻繁に出没しているし、
今回のように中級魔族くらいは人間界にちょっかいを出している。
近しい者が魔族に殺された、それとて不思議ではないだろうが……。
――違う気がするな。
前を行くルヴィリオの背中。
ゼロスはそれを怪訝そうに見やった。
NEXT.