―その力―
『人間ごときがほざいてくれる!』
「ゼロス、後ろにいてね」
1本の剣の姿から徐々に異形の姿へと変わる……いや……
“本来の姿に戻った” と言う方が正しいだろう。
魔族は地面を滑るようにして、一気に間を詰めてくる!
しかし、ルヴィリオはひらりとその突進を軽く横へと交した。
ゅんっ!
その加速を維持したまま、魔族はすれ違い様に素早く腕を一閃させて、
がら空きのルヴィリオの胴を狙う。
だが、それも難なくするりと交わしていくルヴィリオ。
その顔には、焦りも恐れの感情も現れていない。
先ほどから一寸も変わらない、小さい笑みを浮かべたままの表情。
『……貴様ぁ……!!』
余裕にも見下しにも見える表情。
それが癇に触れたのか、魔族は怒気を増大させた。
キュゴゥッ!!
両手を薙ぎ払って一気に何発かの衝撃波を放つ。
その攻撃にルヴィリオはすっと目を細める。
そして、すっと杖を構えた。
ゆら
―― …………ん?
一瞬、ルヴィリオの姿が虚空に溶けるような錯覚があった。
後ろで見ていたゼロスは訝しげに眉を寄せる。
だがそれは一瞬のことで、ルヴィリオは衝撃波を次々と交わして行く。
攻撃の軌道が全て読めているかのように、紙一重。
まるで手の平を擦り抜けていく、風に舞った木の葉のようだ。
ルヴィリオはするすると襲って来る衝撃波を全て交したあとで、
杖の先を強く床に打ち付けた。
カーンッ!
「氷結の鋭利」
ゴォオオオオオオオッ!!
幾十の巨大な氷柱がルヴィリオの周りに突如として現れ、次の瞬間、
魔族へと真っ直ぐに突き進む!
『ぐうぁあッ!?……な、貴様……何故呪文を唱えず……!?』
手足を氷柱に貫かれ、苦痛にもがきながらも魔族は叫ぶ。
その言葉には、ゼロスも同感だった。
――人間は呪文を唱えなければ……魔法を使えないはず……!?
ルヴィリオは答えず、またも杖を床に打ちつける。
「太陽の道標」
こうっ!!
上空から鋭く眩い光が魔族を貫き。
その姿を焼き付けるように照らし出した。
『……ぁ……ああああああ…………ッ!!!』
光が収まり神殿に残るは、穏やかに立ち尽くすルヴィリオ。
言葉を無くす、ゼロスだけだった。
NEXT.