―祭壇―
結局、ゼロスはサクヤと一緒に神殿へ行くことになった。
神殿は最初にゼロスが現れた場所から、比較的近い所にあった。
一見すれば、ただの洞穴に見えるかもしれない。
近づいてみると、土にまみれ、同化しているような石柱が洞穴の横に2本、
見え隠れしているのが分かる。
しかし、それも神殿だと言われなければ、ただの荒れ果てた遺跡にさえ
見えるかもしれない。
「行くよ、ゼロス。私から離れないでね」
「……はい」
ルヴィリオは、あとを数歩遅れて歩くゼロスにそう言う。
ゼロスの答えを聞いたルヴィリオは、にっこりと笑った。
別段、ゼロスを心配しているようには見えない。
一体何を考えて、ルヴィリオは端から見ればただの小さな子供を、
こうして一緒に連れてきたのだろうか。
ゼロスは内心で呆れ果て、薄暗い通路をさくさく進む男に聞こえないよう、
小さく息を吐いた。
それほど歩かないうちに、少し広い広間へと出る。
広間の中央に祭壇のような物があり、その上には一振りの剣。
視線をそれに止めたゼロスは、目を細めてすぐに納得した。
――祭壇というより、この中級魔族か。
人間の目から見てみれば、ただの古びたような剣である。
だが、ゼロスから見たそれは剣ではない――同じく魔族だった。
中級魔族の力では、おそらく完璧な人間に姿を返ることが出来ず、
仕方なしに剣に姿を変えたのだろう。
何も知らずに入ってくる人間を、次から次へと獲物にしていたようだ。
上級魔族としてのゼロスは、お粗末だと感じるだけなのだが。
――これだと中級魔族でも下の方に位置するか。
ゼロスがそう思った時、剣の姿の魔族がふわりと浮き上がる。
『何者にも匹敵する力が欲しければ、私を握るがいい』
……力。
人間が得ろうとするモノ、人間は手にしたいと一度は願うモノ。
――この男も言葉に惑わされ、魔族だと知らず奴を手に取る……。
カツーン……!
広間に大きく響き渡るのは、ルヴィリオが持っている杖の先が床に
強く打ち付けられる澄んだ音。
予想外の動きに、ゼロスは静かに目を見開く。
「……甘く見ないでもらいたいね。私はそんな言葉に惑わされるほど、
愚かな存在へ成り下がった覚えは、まったくないよ」
『……何……?』
「相手が魔族と分かった以上、容赦はしない。さあ、かかっておいで」
NEXT.