―感情―
ゼロスが案内されたルヴィリオの家は、こじんまりとした平屋だった。
ゼロスを居間で待たせ、ホットミルクを作っているルヴィリオ。
その背を横目に部屋の中を見てみるが、数人で暮らしている気配はない。
家具も必要最低限のものしかなく、1人暮らしらしい。
ふいに先ほどの会話を思い出し、ゼロスはルヴィリオに問いかける。
「……祭壇とは?」
「ああ、さっきの村長との会話のことかい?」
温かなホットミルクが入ったカップをゼロスに手渡しながら、
ゼロスの問いかけにルヴィリオは微笑んだ。
ゼロスはひとつ頷く。
ルヴィリオは自分のホットミルクを飲みつつ、椅子に腰掛ける。
「うーんと……この村の近くに小さな神殿があってね……どうやら、
そこの祭壇が不穏な空気を見せているとかで、壊してくれって村長たちに
頼まれているんだよ」
子供だから大丈夫だろうと、彼は高をくくっているのだろうか。
いとも簡単に、ゼロスにぺらぺらと喋るルヴィリオ。
お人よしさといい、どうやら彼には警戒心というものがないらしい。
「……祭壇を壊したりしていいんですか?」
「この村は遠い昔神様の裏切りを受けてしまったらしくて……今はあまり
神様という存在を敬ってなかったりするんだよ。だから躊躇もせずに、
僕に頼んできたみたいだよ?」
「そうですか」
――馬鹿ではないみたいだが、所詮はその程度の人間だな……。
人間は見かけに騙される。
巧みな演技を見抜けない。
そして過ちを繰り返して。
何て愚かで小さな存在だ。
「ゼロスは祭壇が気になるのかい?」
「別に」
「神殿に行きたい?」
「どっちでも」
「そっか……私としては一緒に来てくれると嬉しいな」
くすくすとルヴィリオは悪戯に笑い、テーブルに空のカップを置く。
そして、ゼロスの方をちらっと見やった。
――何を考えている……? こいつの感情は乱れがない。
魔族であるがゆえに、ゼロスは己の糧である畏怖、恐怖、怒り、
恐れなどの感情にはとても敏感だ。
そして、魔族として相容れない歓喜、至福、喜び、憧れなどの感情にも
敏感である。
乱れる感情は本能の揺らめき。
本能を完全に制御し、隠し、殺すことのできる者は非常に稀だ。
しかし、ルヴィリオの感情の動きには、乱れが感じられない。
ゼロスの楽しげな視線に気がつかない振りをして、こくり、とゼロスは
ホットミルクを一口飲んだ。
NEXT.