―関わり―
「あそこが、村だよ」
ゼロスを見下ろしながら、少し先の集落を指差してそう言った。
一応こくりと一つ頷いておくと、青年……ルヴィリオは楽しそうに、
にっこりと笑った。
「えーっと……迷うって……ここでかい?」
「はい」
「お父さんやお母さんは?」
「いません」
「……あ! 辛いことを聞いたね。ごめんね。じゃあどこから来たのか、
分かるかい?」
「……分かりません」
「そう。うーん、困ったな……。もしかして記憶喪失なのかな?」
「……は?」
「そうなんだね……。それじゃあ、私がいったん君を引き取ろう」
「え、いや、僕は」
「ああ、君は遠慮しないでいいよ。困った時はお互い様だよ。きっとこれも
スィーフィード様のお導きだろうからね」
「……はあ」
「私はルヴィリオ。呼び捨てで構わないよ。名前は覚えてるかな?」
「――ゼロスです」
先ほどの会話をぼんやりと思い出し、ゼロスは深々と溜息をついた。
子供の姿の方が何かと便利に有効に使えるだろうと考えたすえ、
幼いこの姿になってはみた。
だが、これは何なのか。
仕方ないことなのだろうが、かなりの子供扱いに眉をひそめたい。
それとも、ルヴィリオがただのお人よしなだけか。
――決して、今の人間界の均衡が保たれているというわけでは
ないというのにな……。
だから “自分” は、造られたのだろうから。
ゼロスは冷めた眼差しで村を眺めた。
「……ああ、ルヴィリオさん…………ん? その子供は……」
「どうも村長、只今戻りました。ああ、そこの森で迷子になっていた子です。
どうやら可哀相なことに記憶喪失らしくて……。この情勢ですし、
いったん私が引き取ろうかと思いまして」
「……そうですか」
村長と呼ばれた初老を少しすぎたばかりの男は、ゼロスを見る。
――なるほど。
男の目をちらりと見やってから、ゼロスは自分から目線を外す。
この男の目に潜む色は嫌悪の色だった。
子供らしい可愛げがない、無言で無表情のゼロスの存在は、
たとえ幼かろうと男にとっては異分子に見えるのだ。
重く渋るような相槌だけではなく、正体不明の異分子など自分の村に
入れたくないと叫びたいのが、男の本音だろう。
「では、失礼しますね。あとで祭壇の方へ行くので」
「あ、ああ……それはもう頼みましたよ……」
男は一瞬戸惑ったような表情をし、そそくさとその場を後にした。
ルヴィリオは軽く息を吐き、申し訳無さそうにゼロスを見下ろす。
「ごめんね……不快だったろう? ここの所、森だけじゃなくいたる場所で
デーモンが多発していてね……。村長も他の人も、少しピリピリと
しているものだから……」
「……そうですか」
――あの目に気がついていたのか、それほど馬鹿でもないらしい。
NEXT.