―刃―
村に戻ったルヴィリオが “終わった” ことを村長に伝えると、
それはそれは村長は、心底安心しきったような顔になる。
冷めた目で、ゼロスは後ろから見やっていた。
その夜。
魔族は人間のように、睡眠や食事をとらなくても負の感情さえ喰らえば、
存在し続けることが出来る。
だが、眠らないことで変に思われるとやっかいなので、一応あてがわれた
ベッドに入って、ゼロスはごろんと横になってみた。
こんなことに付き合ってる自分が、とても馬鹿馬鹿しく思える。
眉をひそめたゼロスは、重々しく溜息をついた。
ふと。
―― ……これは……。
窓の外に、負の感情を感じて目を細める。
闇夜に紛れているつもりだろうが、ゼロスにそんな手は通じない。
カタリ
窓がゆっくりと開け放たれ、数人の気配が部屋に入ってきた。
ベッドから動かずにゼロスは呆れる。
――なるほどな。この村を知った余所者は、消すという魂胆か……。
この村は、ある種の隠れ里のような所なのだろう。
ならば余所者であるゼロスを消そうとするのは分かりきったこと。
忍び足をした数人の気配が、ベッドに近寄ってくる。
ずいぶんと慣れた足取りである。
どうやら、これが初めてではないらしい。
だが、魔道に関しては素人だと分かる。
魔道に関する素人でなければ、わざわざ刃を持って忍び込むなど、
リスクが大きく面倒なことはしないだろう。
――私は……獣神官ゼロス。
刃が、振り上げられた。
――獣王ゼラス様の……直属の部下だ。
閉じていた眼光をすっと開いた。
ゼロスは瞬時にアストラル・サイドへと渡り、刃を振り下ろしてきた
男の背後へと姿を現し、ひたりと背に手を当てる。
「……っ!?」
消えたゼロスに息を飲む男を――
カツン
「私の家で何をしているのかな、ルフラット君?」
いつのまにか開いたドアの向こうに。
マントと紐を外し、楽な格好になったルヴィリオが立っていた。
それはまるで――ゼロスがやろうとしていたことを、止めるかのように。
NEXT.