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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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34

 
―神と魔―

 
 

祭壇を壊してくれないか。
そう依頼されたのは、少しばかり滞在していた隠れ里でのこと。

最初この村に偶然訪れた時、余所者のルヴィリオの姿を
あからさまに怪しいという目で見てきた。
それは、村長ばかりでなく村人もそうだった。

その夜――。
仮宿で寝ていた所を、殺されそうになった。
ルヴィリオが簡単な魔法を使って逆に撃退して村人を逃した所、
村人の頑なな態度は朝とともに急に一変していた。

人とは、こんなものだったろうかと思ってしまうほど。

ルヴィリオはその依頼を簡単に承諾した。
すでに断る事さえ面倒だったのだ。

きっと以前の自分だったならば、そんな罰当たりなことを
出来るはずがないと、断固、拒否していただろう。
むしろ、説教すらかましていたともルヴィリオは思う。



けれど、何も感じなかった。
実際に崩れかけた神殿を見ても。
中にいる “気配” に気がついても。
心に、何の感情も浮かんではこない。

薄々は気づいていた。

ルヴィリオは村に戻るまでの時間を潰すために、
適当に森の中を歩きながらそう考えた。



『スィーフィードの意思』 を持つ自分に、
『シャブラニクドゥの残留思念』 を取り込んだのだから。



そう、宿るのは “神” と “魔” 。
この身にあるのは魔法ではない。

己に封印すると決めた時さえ、伝説の神魔融合のようになど
上手くはいかないだろうと分かっていた。
思わず苦笑してしまうルヴィリオ。

「……まさかここまで上手くいかないとは……、私もさすがに
 思っていなかったけどね」

例えば、今までプリーストであることから意思の主の名を
呼び捨てていたが、思念を持った時から 『様』 を付けねば
思うように魔力がコントロール出来なくなった。

例えば、神魔の相反する力が大きすぎて魔法を使うたびに
魂が少しずつ少しずつ、削られていく。

例えば、魂が削れるほど身体がゆらぎ、自我が消えそうになる。

例えば、例えば……と数をいくつ挙げてもキリがない。
キリがなさすぎて、本当に自分がここに “在る” のかさえ
時々分からなくなる。
けれど、立って歩かねばならないと強く戒めるのだ。

覚醒した彼をみすみすカタートへ行かせてしまい、そのあとを
二人に追わせ、一緒に止めに行こうと言ったのだから。

だから、何としてもカタートへ向かわなければならない。
カタートへ近づくたびに本体の力を感じて、暴走しそうになる
己の身体と精神を無理やり支えつつ。
……だから、時間がかかった。
目と鼻の先にカタートがあるこの場所までやって来るのに
ゆっくりと、じっくりと、一年近くもかけて。

「――神? そういえば感謝して崇めていた。
 ――魔? とてつもなく憎い……」

立ち止まり、ルヴィリオは声に出した。
風もないのに髪とマントがざわめく。
相貌が鮮やかな紅と、沈んだ紅に変わる。

まるでオッドアイのように。

けれど全ては一瞬のこと。
ルヴィリオが瞬きすると何もかもが収まった。
ざわめいていた髪もマントもぴたりと落ちついて静まり、
瞳もいつもの紫苑色へと戻っている。

「憎いのに……認めている……」

ふと、彼は顔を上げる。
辺りの空気が変わったことに気がついたのだ。
普通の人間ならば、気がつかないようなかすかな違和感。

アストラル・サイドが開いた。

そしてそこから “気配” がこの世界へ降り立った。
それも、かなり高位に位置する “気配” が。

ルヴィリオは眉をひそめたが、己の “気配” を消して
“気配” の方へと静かに近づいてみる。
すると、向こう側の茂みからレッサーデーモンがいきりたちながら
咆哮しているのが見えた。

相手にもならないと思い、関わらずにいようと、すっと
ルヴィリオはきびすを変えそうとして――思わず杖を地へついた。


ちゅどんッ!!!


レッサーデーモンの標的になろうとしていた “気配” は
いきなり倒れた敵に怪訝そうにしている。
思わず歩みを進めたルヴィリオは、わざと茂みの音を立てた。

「こんな所まで逃げ込むなんて……。まったく、野良は手間を
 とらせてくれるよね……」


そんな嘘をついて。
“ルイ=マグナス” の姿と寸分違わぬ “気配” の前に姿を見せた。





NEXT.

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