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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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20

 
―呪縛―

 
 

地面に倒れこみたい衝動にかられた。
だがルヴィリオは、何とか杖にすがって体勢を整えた。

びりびりとした感覚が残る。

威力の大きい呪文を唱えたあとは、いつもこんな状態になる。
こんな余韻に、慣れる日などこないことは分かっている。
激しい痛みと吐き気が、絶えず体を貫くのだから。

痛みなんてものでは、ないかもしれない。
それはいっそ、蝕みのような呪縛にも似て――。





奪われた。





その瞬間。
ぞくりと背筋が凍りつくかのような声が聞こえた。
耳の奥でどくどくと鼓動が響く。
その声が頭の中を津波のように直撃し、台風のように暴れ狂う。

ルヴィリオは顔をしかめる。
杖をぐっと握り締め、震えながら瞳をこじ開ける。
油断すれば、それに飲み込まれてしまう。

……誰がみすみす自我を飲み込ませるものか……。

けれど、意識を保っている芯が麻痺してくる。
どろどろとした暗闇の甘美さを持って。



――そうだ、飲み込まれてしまえ。もう、痛みなど忘れてしまえ。
  早く心など失くしてしまえ……楽になりたいのなら。




激しい痛みは、だんだんと安らぎに変わっていく。
ある意味、恍惚のような闇に引きずられる。





うばわれた。 ウバワレタ。
タイセツダッタノニウバワレタ。
カノジョガ ドウ カンジテイタカ ナンテ、
ドウ オモッテイタカ ナンテ カンケイ ナカッタ。

タダ タイセツ ダッタ。 モウ ヒトリノ ジブン ダッタ。
イッショニ “ジガ” ガ メバエタ…
タッタ ヒトリノ――

ユ ル ス モ ノ カ 。

イ カ シ テ タ マ ル モ ノ カ !!






「……く、ぁ……!!」

声に同調するかのように。
目の前の世界が二重になってぼやけていく。


ゆらり


ふいに、体が薄らぐような瞬きを何度か繰り返す。
それに気がついたルヴィリオは、さすがに凍りついた。

これは自分の “自我” が消える前兆なのだ。
理性を保つ、心とも言える “自我” が消えれば。
人がどうなるものかなどは、考えたくもない。

“自我” が消える――全ての根源である魂そのものが意味を
なさなくなるということなのだから。

それに、どうなるのかなんて知りすぎている。

「私……は……失う、わけに……」

何を? など、軽い問いかけはいらない。

……そんな子供じみた問いかけは、もう必要ない。
ぎりっと噛み切る唇の端から、つっと顎を伝って地面に
ぽたりと赤い雫が落ちていく。

「お前に、飲まれるわけ……に、は……いかない……!」

これが性なのか意地なのかは、もう自分でも分からない。
すでに頼るべき神は混沌へと去った。
だからといって、闇に従うつもりなどない。
ありえない――絶対に。

「――貴様だけはッ……!!」

音になって吐き出された計り知れない怨念に、
ルヴィリオの荒かった息が止まった。
呪縛の篭った虚無の刃が、向かうそこに立ち尽くした影。

しまった。

「ぜ……ぜ……ろ、す……っ!!」





NEXT.

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