―憎しみ―
「はあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
セルネルが作り出したものとは比べ物にならないほどの、
瘴気を吸っているかのような、しだいに巨大さを増す虚無が
ラルトフの周りに集う。
怒りに狂っていながらも、ラルトフは虚無を完璧に制御していた。
瘴気と虚無に、ルヴィリオはすっと目を細めて杖を掲げる。
――さあ、お前はこの瘴気の中をどう動く?
これほどの瘴気の渦。
中心近くにいるのだから、とてつもない感情が渦巻くだろう。
動けなくなりそうなプレッシャー。
身を引き裂いて止まぬ恐怖。
嵐のごとく荒れ狂う恐れ。
ルヴィリオは微動だにせず、杖を構えラルトフを見据えている。
その目はとても堅く、崩れぬ意思の強さ。
ゼロスの前で浮かべていた温和な表情など……まるで、
捨て去ったかのような。
「天空と大地を繋ぎし、全ての光の源よ」
ふいにルヴィリオは、ぽつりと呟いた。
呟かれる言葉にゼロスは眉をよせて聞き入った。
――何だ……、この言葉は? ……呪文か? 呪文だとすれば
今まで使わなかったというのに……今更になって?
「我はルヴィリオ=セールクスト 汝の願いを我に託したまえ」
「……セル、ネルを……殺した…………」
「闇を打ち消す輝きを我は求めん」
「僕の、僕の大切な、セルネルを殺した…………!!
人間ごときが……!!」
ルヴィリオが呟くそれは、ゼロスも知らない言葉。
呪文ようなものだと分かったが、それも定かにはならない。
まったく聞いたことのない言葉だったが、
ゼロスはそれを聴いてたった一つ思う所があった。
「今、我の手に永久の光を与えたまえ」
――呪文の響きよりも、どこか願いの響きに似ている……。
願いなど、持ったことがなくとも。
光と闇の爆発は一瞬。
ゼロスは爆発の瞬間に、強固な結界を張った。
だが、距離が近かったため、強い浄化にあてられて動けなくなる。
思わぬ失態に舌打ちをして、意識を爆発の中心に戻した。
「……が、はぁ…っ……!!」
土煙が収まって晴れてきた視界の向こう。
そこで苦しげに呻きながら倒れいく姿がある。
地面と接触する寸前に、虚空にすうっと消えゆくのは――
冥神官ラルトフの姿。
――冥将軍、冥神官相手に歯牙もかけないとは。
……そして先ほどの言葉か……。
“限定” はした。
これで “決定” が出来た。
そうなれば、おのずと自分がとるべき道も決まる。
辺りに残っている瘴気を喰らい、未だに浄化にあてられている
身体の束縛を解こうとして、振り返る。
貫くは、弱弱しくも鋭さを放つ殺気。
「貴様だけはッ……!!」
最期の虚無の刃が、背後に迫っていた。
NEXT.