―隙―
魔族は気配を隠していたとしても、力のある “同類” には
ある程度、すぐ見分けられてしまう。
だからこそ、あまり意味がない。
将軍・神官クラスになれば、自然と気配の中に潜む瘴気を
力の差から見分けられてしまうくらいなのだ。
だからゼロスは、わざと気配を消してはいなかった。
けれど猛然と向かってくるセルネルとラルトフは、
ゼロスが何者であるかということにまったく気がつかない。
―― ……何故だ?
二人と自分には面識がないから。
ふと、そんな人間のようなことを考えてしまった。
しかしすぐに、考えを切り替える。
彼らとて上級魔族である。
ゼロスに気がつかないはずがないというのに。
「はっ!!」
ひとまず、飛んできた波動球を避ける。
バシュッ!!
その波動球をくらった大木が、まるで砂のように崩れて
その場からザラリと風に吹かれ消えた。
―― なるほど……冥王様の力を真似ているのか。
おそらくあの波動球をくらうと、全てを虚無に返してしまうような
力を持っているらしい。
横目でルヴィリオを見やってみると、少しでも隙があれば
いつでも割って入れるように杖を構えなおしていた。
内心舌打ちをしたい気分になりながら、ゼロスは二人から
飛んでくる波動球を交わしていく。
―― ……使命はまだ終わってないが……あいつを気にせずに
力を使ってしまうか……?
ルヴィリオがいない時や、アストラル・サイドなど。
そういう時には使っていたが、こんな現状が続くのならば
悠々と言っていられなくなるだろう。
飛んできた波動球を、ゼロスはアストラルに干渉して結界を張って
防ぎ避けたように見せかけた。
「ほらほらぁ!! さっさと終わりにしちゃおうよぉ!!」
「案外すばしっこいんだね。悪あがきみたいだけど」
「じゃあ……これならどぉ!?」
ばっ! とセルネルが両腕を上げる。
今までより、とびきり大きな波動球を作り出すらしい。
波動球を作り出す時間を稼ぐかのようにラルトフが前に出てきて、
ゼロスと交戦し始めた。
カッ!
直接波動球を叩き込もうというのか、ラルトフは片手に力を
集めてぶつけてくる!
「今度こそ死んでもらうよ!!」
「…………。」
それを瞬時に理解したゼロス。
それをやすやすと喰らってやるほど、彼は素直ではなかった。
「隙が大きすぎるよ。力を見誤ったね」
聞こえてきたのは凛とした声だった。
ゼロスは一瞬、すでに彼がいることを忘れていたことに気づく。
アストラル・サイドを移動してラルトフの背後に回り、
自分の力を叩き込もうとしていた時だったのだ。
「あ、あああああああっ!!!!!!!
いやああああラルトフぅううううううっ!!!!!!」
両手に密集していた、巨大な虚無の塊。
それはまるで暴走をするかのように暴れ狂っていた。
そして虚無は一番近くにいた少女――波動を生み出していた
セルネル自身を蝕んでいく。
どうやらラルトフがゼロスに集中していた間に、ルヴィリオが
何らかの干渉をしたのだろう。
一瞬、ラルトフの動きが止まる。
ルヴィリオが杖を力強く地に打ちつけて叫んだ。
ドン!!!
「太陽の道標!!」
こおおおおおおおおおおおおっ!!!!!
前に使った時よりも鋭く眩い閃光が、
虚無に食われていたセルネルを焼き尽くした。
「せ……セル……セルネルーーーーーー!!!!!!!!!!」
NEXT.