―戸惑い―
――思ったより、時間をかけてしまったな……。
滅びていくユラルクスをしばし見つめたあとで、
ゼロスは少しだけ眉をひそめる。
すでにルヴィリオは、やられてしまっただろうか?
あんな幼い子供のように見えても、力ある冥神官と冥将軍だ。
ゼロスはさっさと意識を “外” へと向けた。
ドンッ!!
ドゴォン!!
チュドムッ!!
ダダダダダンッ!!
派手な音が立て続けに響いた。
それと比例するように、村の中がみるみる破壊されていく。
ルヴィリオはそんな様子もまったく気にならないのか、
攻撃をひらりひらりと避けつづけている。
その姿を追って攻撃を仕掛けていたセルネルは、癇癪を起こした。
「何で当たらないのよぅ! ちょっとぉ! 少しは反撃してそんで
早く死んじゃってよぉ!」
「……セルネル。言ってることがめちゃくちゃなんだけど」
「だって苛立つぅうう!!」
言葉は落ちついているのだが、どこかラルトフの雰囲気も
イラ立っているようにも見える。
ゼロスには分かる。
それほど、ルヴィリオの焦らない姿が気に入らないのだ。
だから魔族は考える。
あの姿を、どうすれば恐怖に怯える姿に変えられるか。
どうすれば苦痛に狂う姿に変えられるのかと。
ゆるぎない、あの穏やかな表情を変えたい。
絶望に崩れる瞬間を見てみたい。
衝動が湧き上がる。
壊 し た い と。
トン
いつのまにかセルネルの攻撃に弾かれて空を舞っていた杖が、
ルヴィリオの手にすっと吸い付くように収まった。
そして、地面に打ち付けられる。
「悪いけど、残念なことに君たちに死に様を見せることは
出来ないよ。誰であろうと……望まなければ……それこそ
永久に……」
「……何言ってるのぉ?」
言葉の意味が良く分からなくて首を傾げるセルネル。
眉を寄せ、ラルトフは黙っている。
―― ……望まなければ……?
それを聞いたゼロスも違和感を感じえる。
「別に、意味が分からなくてもいいんじゃないかな……?
それが何のことを示しているのか、私に教える気は
毛頭ないからね」
くすり、と笑うルヴィリオ。
ようやく反撃する意思を見出したのか、片手で杖を構える。
その動きにセルネルとラルトフも油断なく構え――
唐突にそれを解いた。
ぱっ! とセルネルが上げていた手を下ろす。
ラルトフは怪訝な表情で虚空を睨んでいる。
きょろきょろ、と無意味に辺りを見回していたセルネルは、
隣のラルトフに困った顔でしどろもどろに問いかけた。
「ラルトフぅ……どうするのぉ?」
「どうするって言ったって……そう言われたら僕たちにはどうせ
どうすることも出来ないんだけどね」
「それは。そう、だけどぉ」
「セルネル」
「……………………。」
「……どうしたんだい?」
黙り込むセルネルに、ラルトフは微妙な表情を見せる。
ルヴィリオは二人の変な戸惑いを感じたのか、
構えた杖を下ろした。
先ほどまであれほど好戦的だったセルネルとラルトフには、
今はもうそんな気配は残っていなかった。
ただただ、驚きと戸惑いだけが支配されている。
ラルトフはふう、と息をつくとセルネルの腕を取る。
「仕方がないけど、行こう、セルネル?」
「……分かったぁ……」
ちらり、とラルトフを見たセルネルは一つ頷く。
そしてくるっとルヴィリオの方を向いた。
「ちょっとあんた。今日はここまでで勘弁してあげるぅ……」
力なく言いのけるセルネルを引っ張ってラルトフは
アストラル・サイドへと姿を消した。
後に残るは奇妙な沈黙。
最後の二人の行動に、ゼロスは少し首を傾げる。
――何だ……?
NEXT.