―襲撃―
「グァァアアアアアーッ!!」
「きゃあああ!!」
「早くっ……早く逃げろーっ!!」
人間と悲鳴と闇獣の咆哮が、村の中を支配していく。
レッサーデーモンが陸から空から――次から次へと攻め込んで来る。
ゼロスはアストラル・サイドへは戻らず、民家の壁に背をもたれさせ、
うっすらと笑みを浮かべながらその様を見ていた。
普通の村人にとって、レッサーデーモンの力は脅威だろう。
しかしこの程度なら人間でも腕の魔道士や戦士ならば簡単に
勝てるくらいだ。
―― ……あいつは村から出ていて一時間しないと戻ってこない。
村の惨状にルヴィリオが驚愕するのか、何とも思わないか、
それが今のゼロスに一番興味を示すものだった。
穏やかな雰囲気を崩すことない、彼の反応がどう揺れ動くのか。
――気になるのは、神殿で一瞬だけ見せた雰囲気だけが……
唯一の……。
「お……まえッ!!」
ざり、と地を踏みしめる音と声に、ゼロスはゆっくり目を向ける。
左肩を鮮血で染めるルフラットが、ゼロスを恐怖と憎しみに彩られた
目で睨みつけていた。
「お前が……!お前があいつらを引き、込んだ、んだろう……ッ!?」
――憎しみに捕らわれた、愚かな人間。
「…………さえっ……お前、さえ、いなければぁああ!!!」
ドシュッ!!
振り下ろされる刀が体ではなく――大地へ虚しく突き刺さる。
自分が正面から貫くはずだったルフラット。
何故、己の胴が背後から深く貫かれているのか分からなかった。
胸から突き出すのは、黒みに紫がかった三角錐。
虚空に三角錐が溶けるように消える。
男は支える物が無くなり、糸が切れたように地に落ちた。
――末路はただ滅び行く。
ゼロスはちらり、と動かぬ男に目をやる。
軽く手をかざして力を加える。
すると、男の体がザラリと砂へ変化して消えた。
村に響いていた叫び声はずいぶんと小さくなっているようだったが、
まだ全ては消えてはいない。
「……ちょっとぉ……一体どうなってんの、これぇ……? 何で、
こーんな雑魚ばっかしかいないのよぉ?」
「さあね。どこかに隠れてるんだか何だか、僕は知らないけど」
「知らないって……あんたねぇ! これはじゅーっだいな任務なのよ!?
与えられたじゅーっだいな、にーんーむ!!」
「普通に仕事って言えばいいだろ……。まあ、ある意味で重大っていうのは
認めてあげるよ」
ふいに。
村の入り口の方から、言い合いのような物が聞こえて目を向ける。
そしてその目を、ゼロスは珍しく見開いた。
――あれは……。
「ふんだっ! でもぉ、ここにいるのは雑魚だけじゃないってこと……
この冥将軍セルネルちゃんのおめめはごまかせなくってよ!」
「もちろん冥神官ラルトフ……僕も手加減はしないけど」
――冥王様の直属の配下。
NEXT.