―その場所―
ゼロスに思いきり八つ当たりをしたリナの気が済み、
ミルガズィアとメフィを加えた一行は、ヴラバザードの一派が
集まっているという場所を目指した。
二人によれば、ここからそう遠くはないらしい。
久々に会った二人と話をしているリナたちと、ミルガズィアたちの
背を見つつ、リヴィはそれとなく辺りに目線をくばる。
確かにこの近くに気配はないのだが、もう少し遠くに行けば
竜族の気配がある。
しかし、リヴィが気になっているのはそんなことではない。
歩いている “場所” が、リヴィにとって問題だったのだ。
「(……何と言う、必然だろうか……)」
偶然を超えた必然だろうか、介入されての必然だろうか。
それは、リヴィには分からなかった。
――とはいえ、どちらも同じであることに変わりはない。
「リヴィさん? どうかしました?」
「……え」
じっと黙り込んでいたリヴィに気づいたのか、ゼロスが
ひょいっと軽く振り返って問いかけた。
リヴィはゼロスの行動に、少しだけ目を見開く。
だが、すぐに首を振って微笑んだ。
「いいえ……少し考えごとをしていただけですよ」
「そうですか?」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ」
ゼロスは一つ頷いて、また前を向いて歩き出す。
その後ろ姿にリヴィは視線を向ける。
初めて会った時にはまったくの無表情で、無感動であり、
とても人間のことなど分からないという様子だった。
なのに、こうして千年後には。
まさかこんなにも、変わっているとは思いもしなかった。
魔族としての中身は変わっていない。
変わったのは思考の有り方だ。
何を楽しみ、何を受け止め、何を行うのか。
ただ一つとしてリヴィが分からないのは、何故わざわざ、
その姿をしているのかだったが――その疑問すら、
リヴィにとっては嬉しいことだった。
「見えてきましたわよ、リナさん」
「……あれなの?」
「そうだ。奴らはあそこを根城にしているらしい」
三人の声にリヴィは意識を思考から戻す。
そして目に映した。
前方に見えてきたのは、一見すればただの洞穴。
けれど洞窟の横に、土にまみれて同化しているものの、
今にも崩れ落ちそうな石柱が二本、見え隠れしている。
きっと、ここは神殿であると誰かに言われなければ、
ただの荒れ果てた遺跡にさえ見えるだろう。
そして荒れ果てているのは何も神殿だけではなく、
周囲も酷い有様だった。
草木は所々枯れ落ち、大地は所々えぐれている。
極めつけは少し離れた所に、浅いクレーターが出来ていた。
その光景を眺めたリヴィの胸の内に、苦いものが浮かぶ。
ちらりと気づかれないようにして、ゼロスの横顔を見てみれば、
彼も少し驚いたような顔をしていた。
「何よ、これ。まるで戦いのあとじゃない?」
「それにしては古い痕跡だ。草木の枯れも最近ではない」
「……この枯れ方、尋常じゃありませんわね。何て痛々しい……」
「荒れてんなあ……」
怪訝そうにリナが周囲を見渡して言えば、ミルガズィアやメフィも
頷いて近くの枯れ枝に触れて眉をひそめた。
ふいに地上に大きな影が差す。
大きなはばたきの音のあと、声が轟く。
「貴様……リナ=インバースか!」
全員が上空を見上げれば、何頭かの竜が旋回し地上に降りてくる。
その声が聞こえたのか神殿の中からも、何頭かの竜がすばやく
外に飛び出してきた。
そしてリナを認めると、何の言葉もなく闘志をたぎらせる。
ガウリイがリナをかばうように、彼女の前に進み出た。
「お前たち……!」
「リナ=インバース自ら、我らの元へ来るとはな……」
ミルガズィアが何ごとかを言おうとしているが、この状態では
何を言おうとしても彼らの雰囲気に全てを打ち消され、
容赦なく攻撃をしかけられるだろう。
何をしても無駄だと感じとったリナたちは、顔をしかめながら
戦闘態勢に入る。
――しかし、一同は目を見開いた。
緊張感が走り抜ける両者の間に、一人の子供が平気な顔をして
ひょいっと割って入ってきたのだから。
「さて……ここにいる一派はリナさんを狙っている。それはリナさんを
排除すれば、害なる存在がいなくなるということでいいんだね?」
静かに問いかける、金髪碧眼の子供。
竜族たちは何も言わなかったが、リヴィは返事を訊かなかった。
答えなど、態度ですでに分かりきっている。
にっこりと可愛らしくリヴィは微笑むと、手を虚空に伸ばす。
音もなく虚空に出現した杖を掴むとくるりと軽く回して、
トンと軽く地面につく。
たったそれだけの動作。
しかし、たったそれだけの動作で周囲の空気が震えた。
びくりと思わず目を見開く、竜族たち。
――彼らは何に気づいたのか。
彼らの震えに気づきながらも、リヴィは何も口にはしなかった。
ただ多少の呆れを含んだ声色で、静かに言い放つ。
「ちょっと、お仕置きの時間にしよう」
NEXT.