―衝撃―
「……ちょっと?」
「……何故です?」
「「あんた (貴女) たち、どうしてっ!?」」
森の中の街道を進んでいた所に、何故か、しげみの方から
出てきた二人組み。
思わず唖然として大きく口を開いているリナの姿に、奇妙な形の
白い鎧をつけた金髪の少女も目を見開く。
そして、お互いに指差し叫んだ。
少女の後ろの男性も、意外そうな顔をしていた。
ガウリイはにこにこと笑い、ゼロスは苦笑し、リヴィはこの必然に
思わず小さな声でくすりと笑みをこぼした。
「メフィに、ミルガズィアさんも! 何でこんな所に!?」
「それはこっちの台詞ですわ!」
心底驚いて困惑したように問いかけるリナに、眉をひそめ、
ひょいっと肩をすくめるメフィと呼ばれた少女。
代わってミルガズィアと呼ばれた男性が、メフィの隣に一歩進んで
リナの驚きに答えた。
「久しぶりだな、人間たちよ。本当に縁があるものだ。……本心を
正直に言うとすれば、金輪際、見たくもなかった顔もあるのだがな」
ちらりと視線を動かすミルガズィア。
その視線の先には、ひょうひょうと笑みを浮かべるゼロスの姿。
確かに竜族には遠慮願いたい所なのだろう。
ドラゴン・スレイヤーの異名を持つ、ゼロスの存在は。
「それに、この子」
メフィが不思議そうな顔でリヴィを見下ろす。
そしてやおら顔を赤らめると、リナに小声で聞いた。
「……やっぱりお二人の子供ですの?」
「ちっ…………違うわああああああああっ!!! こんな時に
馬鹿なこと言ってんじゃないわよっ!!!」
どかん、と顔から湯気が出るほど熱を噴出してリナが怒鳴る。
その反応を見て、くすくすとメフィが笑った。
きっと分かっていてからかったのだろう。
もちろん、まったく血の繋がりがない完璧な赤の他人である
リヴィの顔立ちは、リナとガウリイのどちらにも似ていない。
髪の色も二人とは違って黒である。
しかしリヴィの大きな瞳は、ガウリイと同じく澄んだ碧眼であり、
リナと同じようにふんわりとした髪質をしていた。
一行の関係など何も知らない人間が、二人の子供だと思っても
仕方ないのかもしれない。
現に、ここに来るまでの道中。
リナはまったく気がついていないようだったが、すれ違う旅人たちに
微笑ましい視線を送られていたのをリヴィは気づいている。
親子プラス一名の旅だと、勘違いされていたのだ。
ガウリイはメフィに何も言わなかったものの、ゼロスは思う存分に
ケラケラと楽しそうに笑ったせいで、リナの愛用のスリッパで
問答無用で叩かれている。
アストラル・ヴァインをかけられたスリッパだったのか、
ゼロスを地に沈めてから、リナはむっすりとしながらパンパンと
手を払って二人に向き直った。
「この子はリヴィ!わけありで、あたしたちと一緒にいるのよ」
「初めまして、リヴィといいます」
にっこりと笑ってみせると、メフィもミルガズィアも曖昧に微笑む。
それを見てどう接していいのか分からないのだと気づく。
リヴィも確かに困るかもしれないと苦笑した。
関係性がまったくないのだから。
「ったく……それで? どうして会うはずのない、ミルガズィアさんと
メフィがこんなとこにいるのよ?」
「山から降りてきたのか?」
「その言い方は止めてくれないか、人間の男よ」
ミルガズィアはガウリイに一言挟む。
「それで?」
「……うむ……」
首を傾げる再度問いかけるリナに、ミルガズィアは少しだけ
難しそうな顔をしながら腕を組んだ。
するとメフィもちらちらとゼロスを気にしつつも、背筋を伸ばして
慎重な面持ちになる。
「実は今、火竜族の下の者たちの動きがおかしいとの報告が
多くなってきているのだ。」
「あまりにも多いため、私たちも協力して調査をしていましたら、
不審な者を見つけたんですの。問い詰めた所、ある人間を
狙っているとようやく白状しましたわ」
「……だが、それが誰か、はっきりと口にはしない。ならば、
一派が集まっている場所へこちらから行こうと思ってな」
「…………それって」
二人の話に、リナはもろに顔をしかめる。
その横でガウリイがほがらかな声をあげた。
「なーんだ、それじゃあ二人はもうその人間を見つけてるって。
だって、リナのことなんだろ、それ」
「何ッ!? それは本当か、人間よ!?」
「ガウリイィィィ!!」
スパパパパパパァアアアン!!!!!
にこにこと完全無欠な笑顔のガウリイの頭を、さきほどゼロスを
叩いたスリッパが見事に直撃した。
ぜいぜいと息をつくリナにリヴィは少し同情する。
しかし、もっと同情していたのはメフィだった。
はあ……と重く深い溜息をついて、メフィはリナを気遣う。
「……本当に……魔族にも狙われ、竜族にも狙われて……
落ちつく暇もありませんわね、貴女方は……」
「だああ!! あたしのせいじゃないぃぃぃっ!!!」
「ああ、ちなみに今は僕たち、リナさんを狙ったりしてませんよ。
これ以上僕たちに被害が出るのは、やっぱり遠慮願いますから」
「あんたらがちょっかい出すからでしょうが!」
気づいていないのだろうか?
ゼロスは、彼女たちは。
何も知らないはずのリヴィの前で、ちゃっかりとゼロスが
魔族だと肯定したことに。
NEXT.