―襲撃―
いつもの密かな夜陰だった。
しかし、突然それは切り裂かれてしまった。
夜陰の向こうで爆発音が響いた。
連鎖するように一つ、二つ、三つ……。
それほど間隔をあけずに地鳴りが身体を揺らす。
仲間から耳が良いと重宝がられている己の聴覚は、徐々に
爆発音が近づいてきていることに気づいていた。
克明に、鮮明に。
温かな季節のはずだが背は絶えず悪寒が走り、頬から零れた
冷や汗が首筋を伝う。
震えて上手く動かない手を見やった。
脳裏を巡り続けるのは、恐怖と絶望と驚愕と困惑。
何故、何故、何故――?
答えを知る者はいないだろう。
答えを知るのは己を追い詰めんとする殺戮者のみ。
何故、何故、何故、何故、何故――。
「見ィつけた……」
静かな凜とした声に、がくんと腰が抜ける。
地にへたり込みながら、肩で荒げた呼吸をしながら振り向く。
燃えたぎる双眸に射抜かれた。
遥かなる高みから、己の命は見下ろされていて。
「……ぁ……っ」
どうしても悲鳴は上げられない。
標的にされてから衝動のままに叫び続けていたせいで、
喉が焼け付くように痛んでいるからだ。
それでも声を上げる。
そうしなければ自我が崩壊しそうだった。
「…………ロバーズ・キラー、ドラまたリナ=インバース……!」
「誰がじゃぁぁぁああああっ!!!」
ちゅどごおおおおん!!!
「リナさん、今日はとっても荒れてますねえ?」
「そうかあ? 可愛いもんだぞ。ほれリヴィ。魚焼けたぞ」
「あ。ありがとうございます、ガウリイさん」
辺りに響く爆発音も地鳴りも、森に上がる煙にさえ目もくれずに、
ゼロスとガウリイとリヴィはのんびり焚き火を囲んでいた。
ガウリイから焼き魚を手渡されて、リヴィは両手で串を持って
湯気を上げる魚をふうふうと冷ます。
ぱくっと白身を口にした瞬間、また近くで爆発音が響いた。
ゼロスは細い枝の先で、ちょいちょい薪をいじっている。
「まあ……リナさんが荒れるのも仕方ありませんかねえ……。
ここ数日、何の収穫もありませんし」
ゆらめく炎がぱちり、とはじける。
「でも盗賊は退治されて、良いことではありませんか?」
「……ですねえ」
リヴィがそう言うとゼロスは軽く頷く。
その後にとても小さく、僕の食事にもなりますしねと呟かれた
ゼロスの言葉は、もちろんリヴィの耳にもしっかりと入った。
知らんふりをしていたが。
セイルーンを出て、ラルティーグ方面に向けて旅立った一行。
その間に数日が過ぎたのだが特にこれと言って、盛大な襲撃が
あったわけでもなく、ごたごたに巻き込まれることもなく。
実に平和な数日間が過ぎた。
いい加減ストレスが溜まっていたのか、野宿がてらリナは
ぱぱっと夕食をすませるとせっせと盗賊いぢめに励んでいた。
ガウリイはさりげなく周囲の気配へと気を配りながらも、
暴れるリナをきにさせていた。
下手に止めたりすれば余波が飛んでくることを、ガウリイは
身を持って知っているからだ。
「リナさんの盗賊いぢめって、いつもこんな風なのですか?」
「おう、そうだぞ。でも、今日は確かにゼロスの言う通り、
少しばかりいつもよりは荒れてるかもしれないなあ……」
「すごいですね」
苦笑するリヴィの問いに答えながら、ガウリイは自分の焼き魚に
かぶりついた。
しばらく他愛もない事を談笑しつつガウリイとリヴィは魚を食べ、
ゼロスが悪戯に焚き火をいじったりしていると、少しずつ
爆発音が収束していった。
ガサガサと茂みをかきわけ、麻袋を背負ったリナが戻ってくる。
「お帰りなさい、リナさん」
「たーだいまー。……ったくう、下手に人数が多いわりにはろくな
お宝持ってないったら……」
ぶつぶつ呟きながら、リナは麻袋を降ろしてリヴィの隣に座る。
リナはさっそく麻袋を開いて、中から戦利品を取り出していく。
麻袋の中へせっせと手を入れるたびに、じゃらりとした軽い金属が
音を立てているので、ほとんどが硬貨と宝石の類いなのだろう。
魔道士であるリナにとって、本当に “お宝” だと言えるのは、
その身の糧となる魔法書や魔法道具関連になる。
硬貨はそのまま、宝石は売りつけて路銀などに買えてしまうのだから。
そんなことをつらつらと考えつつ、戦利品を片付けるのを
傍で見ていたリヴィに、ふとリナは気がつく。
彼女は少し楽しげに笑って、ブイサインを作ってみせた。
NEXT.