―初対面―
リアランサーへの道を尋ねた男の、言った通りだった。
店の横にはガッシリとした鎧を纏う兵士や傭兵、長いマントや
ローブを羽織る魔道士たちがずらりと並んでいて、その横を
魂が抜けたような顔でぞろぞろ帰り行く行列がある。
帰っていく行列からは何やらぶつぶつと 「あんなあっさり……」
「自信失くした……諦めて家業継ごう……」 「包丁一本……
剣士辞めようかな」「必殺技が木の枝で……」 など、まるで
呪詛のように聞こえてくる。
「あーらら。あの人達がいかに歴戦だとはいえ、まだだーれも
勝ったことなんてないのにねえ」
リュフィはその光景を見慣れているらしい。
行列に聞こえないように、ぽつりと小さく呟いた。
二列に並んだ人々の横を、リュフィとリヴィはさっさと歩いて
店へと入る。
がやがやとしていてにぎやかなものの喧騒などはなく、
店の中はとても良い雰囲気で満ちていた。
トレイを持ってちょうど厨房から出てきたウエイトレスが、
二人に気づいてにこやかな顔をして近寄ってきた。
「いらっしゃいませー! ……って、リュフィじゃないの!あんた、
今頃戻ってきたの? すでにクビになってるんだけど?」
「はう! やっぱりですかー!?」
「当たり前でしょう」
呆れたようなウエイトレスにリュフィは涙を流す。
するとカウンター横のドアから、一人の女性が入ってきた。
カラン、という涼やかな音にリヴィは振り向く。
肩上で切りそろえられた紫黒の髪と、黒い瞳。
リヴィはその女性を見て一瞬だけ微笑む。
女性はそれに気づかず、リュフィを見て目を見開いた。
「あら、リュフィじゃない?」
「ああっルナさーん! 私のクビどうにかなりませんかっ!?」
縋りつくリュフィに、溜息をつくルナと呼ばれた女性。
えぐえぐと目を潤ませて、リュフィは祈るように見上げている。
しばし考えたあとで、ルナはすっと店の外を指差した。
「あれ全部……そうね、リュフィの実力なら三十分。その間に
ちゃんと終わらせてきたら、私から店長に言ってあげるわよ」
「やってきますー!!」
リュフィは猛然と立ち上がって店を出て行く。
リヴィはリュフィがバイトする理由を聞いてはいないが、
どうやらそこまでしてもバイトを辞めたくないらしい。
ルナはその場に残ったリヴィを見る。
すると、ふと目を見張った。
しかしすぐに、空いていた奥のカウンター席へ案内する。
ルナからメニューを受け取るリヴィ。
その姿に、ルナは少し複雑そうに微笑みながら訊く。
「……あなた、もしかしてあたしと同じ? 気配がそっくり」
その言葉にリヴィはメニューから視線を上げる。
ルナの顔をじっと見て首を横に振った。
そしてにっこりと笑う。
「……いいえ。残念ながら私はスィーフィード・ナイトでは
ありませんよ、ルナ=インバースさん」
「あら? そうなの?」
「私はリヴィオル=セストルーク。貴女の対の存在です」
「え」
リヴィの言葉に絶句するルナ。
はっと我に返ると慌ててついっと周りを見回す。
だが、どの客達もウエイトレス達もこちらを気にしていない。
ほっとルナは嘆息する。
そして、苦笑してリヴィに言った。
「バイト……早く上がらせてもらうわね。話がしたいわ」
「ええ、だから私もようやくここまで来たんです」
ルナはメモ帳を取り出して、サラサラと家の住所を書く。
綺麗に紙を破るとリヴィに手渡す。
丁寧に注文を聞くと、オーダーをしに厨房へ戻っていった。
くすり、とリヴィは笑むと周りの客たちの会話に耳を傾かせた。
しばらくしてルナが料理を運んできた。
まさにその瞬間、バタンと店のドアが開いた。
二人でドアの方に振り向く。
するとそこには肩で息をついているリュフィ。
満身創痍ではないものの、疲れた様子で立っている。
少しだけ髪や服が焦げていたり切れていたりした。
「ルナさぁあああああああん!!
三十分以内で終わらせましたあああ!!」
「そ。じゃあ約束だから店長に言ってあげる」
「あっ! ありがとうござ」
「クビになったリュフィがようやく帰ってきましたって」
「ええええええっそんなああああああああ!!!!!!!」
ショックを受けて座り込むリュフィ。
誰もがからかっていると分かるだろうに真に受ける姿に、
他のウエイトレス達や客も呆れたように微笑んでいる。
どうやら彼女は “昔の自分” とはまったく違って、
人間関係は良好なようだとリヴィは思う。
最も、リヴィは自分から関わろうとしなかっただけなのだが。
NEXT.