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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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15

 
―意味―

 
 

夜になり、リナたちは近くの村へ戻ることになった。
リヴィはリナたちと一緒に行くのを断り、その場に残るという。
首を傾げたものの、明日の朝にまたここで落ち合うことを約束して
リナたちは村へ帰っていった。

リヴィは近くの木へと寄りかかって、静かに口を開く。

「何と言おうか、迷ってたよ」

おもむろに苦笑するリヴィの瞳は、広場へと向けられている。
かさりと木々の葉が揺れた。

「でもね」
「どうして戻っていらっしゃったんですか?」

少し棘のある声が、続こうとした言葉をさえぎった。

大きく枝葉を揺らしながら、リヴィが寄りかかっていた木の上から
すらりとした影が飛び降りてくる。
マントをなびかせて、軽い音を立てて地に足をつけた青年。
けれど、振り返らずに広場へと目を向けている。
逆にリヴィは目線を青年の背へと移動した。

気づいているだろうが、頑なな雰囲気を崩そうとしない。
けれど態度は拒絶とも違う。

「ゼロス」
「何ですか?」

その証拠に、呼びかけると返事をした。

「私だって戻ってくるつもりはなかったよ」

ぴくり、とゼロスの肩が揺れる。
ゆっくりと空に浮かぶ満月を、リヴィは見上げた。

そう。
ここに帰ってくるつもりはまったくなかった。

混沌の中に深く沈んで、もう目覚めることのない、
永遠の眠りにつくのだと信じていたのだ。
いや――。
目醒ないことを願ってさえいた。

けれど、そんな安穏たる結果は許されなかった。

「今後は私も、きちんとこの使命を全うしなければならないからね」
「…… “赤の竜神の神官” としてですか?」
「世にも珍しい “赤眼の魔王” の残留思念を持った、
  “赤の竜神の神官” としてのね」
「!?」

リヴィの言葉を聞くと、頑なだった雰囲気を一瞬で消し去り、
ゼロスが驚愕の顔つきをしながら背後を振り向く。
目を見開いて呆然とリヴィを見やった。

しかし、すぐに我に返る。
少し気まずそうに視線を泳がせた。

「あの時、魔力の本流に呑まれて私の記憶を見たんだろう?
 私の身にはまだ “あれ” は残っているよ。あの時よりは精神力が
 強くなって、自我が消えそうになることはなくなったけれどね」
「……そう、ですか」
「ゼロスは報告しなかったんだね」
「っ」

思わずリヴィが嬉しげな声で言った。
すると、ゼロスはむっと顔をしかめてまた背を向けてしまう。
まるで子供がいじけて、黙りこむような姿だ。

答えてはくれないと知りつつ、リヴィはどうしても訊いてみたかった。

「ねえ、ゼロス。どうしてその姿?」

それとも、ゼロスは答えるのだろうか。
同じ言葉を投げるのだろうか。

あの時と同じ瞳をしながら、どこか苦しげに、どこか焦るように。
―― “意味などない” と。

やはりゼロスは答えずに沈黙を保つ。
苦みが強い微笑みをこぼして、リヴィはまた月を眺めた。
今夜は、月光が太陽のようにとても眩く輝いている。





「――意味など、ありませんよ」

ともすれば聞き逃しそうな、呟きが落ちた。

「こんなものに、意味などあるわけないでしょう? 例え僕が
 どんな姿をとろうが意味などまったくありません。誰を対象にして
 姿を変えようが、何かを知りたくてこの姿になったのかなんて。
 ……それとも……貴方は全てに対して、意味が欲しいですか?」

静かな言葉。
ゼロスには先ほどのいじけた様子など、まったくなかった。
もちろんその雰囲気には動揺も焦燥もなく。
目を瞬かせたリヴィは、くすくすと笑ってしまった。

「いや、必要ないよ。私にとっては君の姿が全ての答えだから」
「……そうでしょうとも」

ゼロスはくるりと振り向く。
ついっ、と杖先をリヴィに向けてみせた。

「けれど、都合の良いように勘違いをなさらないで下さいね?
 僕は――魔族なんですから」

リヴィの中にあるものを、ゼロスは上に報告しない。
しかしそれはリヴィのためでも何でもない。
命令されれば報告し、 “何か” あれば対処をする。

もちろん魔族の自分として。

最初から分かりきっているという表情で、
リヴィは簡単に一つ頷いてみせた。

「もちろん」
「なら構いませんよ。貴方が誰であろうとね」

リヴィオル=セストルークであろうと、
ルヴィリオ=セールクストであろうと。

“赤の竜神の神官” であろうと、
“魔王の残留思念を持つ者” であろうと。

正確にゼロスの言葉を受け止めたリヴィは、もう一度頷いた。
未だアストラル・サイドへと帰ろうとはせずに、ゼロスはまた
木の上へと移転する。

その木に背を預けるリヴィ。

ゆっくりと過去を思い出しながら月を見上げた。
もう痛むことのない瑕を感じながら。





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