―お仕置き―
「なっ……な……?」
「ア、アルバロディス様っ!?」
口をぱくぱくと開閉させる男に、竜達は束の間、硬直を抜け出して
地面にへたりこんでいる男のもとへと急ぐ。
己の部下達を見回し、そのあとできょろきょろと辺りを見回している
男の姿は、多少……いや、ずいぶん滑稽に見えてくる。
ふいにミルガズィアが声を上げた。
「アルバロディス!?」
「……そ、その声はまさか、ミルガズィア!?」
ぎくり、と肩を動かしてミルガズィアを見やる男。
怪訝な顔をしてメフィが問う。
「おじさま? お知り合いですの?」
「うむ。アルバロディス……今は火竜族の重鎮だが、私が長になる
前からの付き合いで、旧知の仲でもある」
「ミルガズィアがいるという事は、ここはドラゴンズ・ピークか!?
何故、私がそんな…いや何故お前達がここにいるのだっ!?
リナ=インバースはどうした!!」
「い、いやあの、それが――」
唖然としていたアルバロディスは我に返る。
戸惑い、慌て、うろたえながら怒鳴ったアルバロディスに、
部下たちは困ったような泣き出しそうな声を出す。
立ち上がって砂埃を払い落とすアルバロディスに、リヴィは
声をかけて注意を向かせた。
「アルバロディス君」
「? 何なんだ、この無礼な子供は?」
「ひっ」
上司の冷たい声に部下たちは震える。
先ほどの威圧感の恐怖を思い出したようだった。
くすり、と笑うリヴィ。
ゼロスはその笑みに嫌な予感が走る。
「学習も出来ず、無闇に芽を摘もうとする君の行いこそ、私はとても
無礼なのだと思うけどね?」
「なっ……」
それは明らかすぎる挑発。
顔をかっと燃え上がらせて、アルバロディスはリヴィを睨む。
何とかそれを静止しようとする部下たちだったが、リヴィにちらりと
視線を向けられて黙り込んでしまった。
たじろいで後ろへと下がりつつある部下たちの様子に、
アルバロディスはまったく気づかない。
「ミルガズィアさん、あいつ、いつもあんな風なの?」
「う、む……。まあ色々と潔癖な男でな。自他ともにきちんと
認められた者くらいにしかそれなりの態度はとろうとせんのだ」
思わず呆れたように問いかけるリナに、ミルガズィアは
苦りきったような顔で答える。
「思い込みも激しいようですわね」
溜息をついて呆れるメフィ。
ガウリイも頬をかりかりとかきながら頷く。
「力の差ぐらい、分かってもおかしくないと思うがなあ」
周りで交わされる会話を聞きつつ、ゼロスはリヴィから視線を
外せずにいた。
姿形は違えどその存在感を一度感じてしまえば、もう子供が
誰であるかなど疑問に思う余地はなかった。
頭をよぎるのは疑問ばかりだが、それでも何故か納得してしまうのだ。
彼が悠然とここにいることを。
だいぶ癖になってしまっているのか、くるりと軽く杖をまわすリヴィ。
「そうだね、ちょっと悪夢でも見てくるかい?」
「悪夢?」
リヴィは回していた杖を、空へと放り投げ遊ばせる。
光の円を描いていた杖はそのまま空へ飛び、目の前に落下してきた
その瞬間に手に取る。
そして、力強く地を打った。
「幻影の霧霞」
ブワッ!!!
宝玉から飛び出した淡い紅の霧が、その場にいた竜たちを
次々と取り込んでゆく。
何とか避けようとしたアルバロディスも呑み込まれ。
その場には、しばしの静寂が訪れた。
もう一度、今度は軽くリヴィが杖で地を打つと、広場を囲っていた
紅の風が消え、元の空気が戻ってくる。
さわりと木々がないだ。
「さてと」
ようやくリナたちの方へ完全に振り向いたリヴィは、
とてもすっきりとした表情をしていた。
晴れ晴れともしている。
「しばらくの間はあのままにしておこう。すぐに終わらせたら
お仕置きじゃなくなるしね?」
にっこりと笑うリヴィだが、その笑顔は子供のものではなく。
それは、れっきとした大人のものだ。
ここまできて、ようやくリナはリヴィが出会った時の子供らしさが
欠片もないことにやっと気がつく。
「リヴィ……あんた、何者なの?」
「うん?」
リナが神妙な顔で問いかける。
それにリヴィは、くすりと笑って口を開く。
「多分ルナさんと同じような感じじゃないのか? 何だか二人の
気配ってそっくりだしな」
そして名乗るより先に、ガウリイがさらりと言う。
ぴしりっと硬直するリナ。
首を傾げるミルガズィアとメフィ。
冷や汗を垂らしつつ苦笑するゼロス。
ほけほけとしたガウリイ。
耐え切れなくなったリヴィは思わず楽しげに笑い出し、
その後にリナの絶叫が森の中へと響き渡った。
NEXT.