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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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「……こ、こんばんは……?」

にっこりと、害のなさそうな笑みを浮かべる男の人。
だけどあたしはその笑顔がとてつもない偽物のように感じて、
背筋が薄ら寒くなる。

いやだってまさか向こうから出てきていただけるとは……正直、
まったくもって思っていませんでした。
むしろ――何もないまま毎日が過ぎるんじゃないかとも。

ですよねー。
無理ですよねー。

「岸谷ちゃんだっけ?可愛い名前だね。俺は折原臨也、よろしく」
「……はあ……どうも……」

あんまりよろしくされたくありません。

折原臨也はよっかかってたフェンスから軽く身を起こしながら、
一歩、あたしに近づく。

夕陽を背にした姿の顔は暗い。
笑っているはずの表情が、よく見えない。



「俺、新宿で情報屋をやってるんだけどさー、愁ちゃんって最近池袋に
 来るようになったんでしょ?それに“岸谷”って苗字。ちゃんの
 オトウサンって、実は俺の知り合いなんだよね。もうちゃんのこと
 気になっちゃってさー。だから俺、じっとしてらんなくなっちゃって。
 ――調べても調べても、君がその苗字になる前のことが、一切、
 出てこないんだよね。前の苗字も、住所も、家族さえ……つまり
 “岸谷”になる前の、君の戸籍が見つからないんだ。ありえないだろう?
 まるで君という人間は、この地球上に忽然と現れたかのようにして、
 その存在を創り上げているんだ。この世に生まれたなんて可愛いものじゃ
 ないよ、この世に突然割り込んできたかのような異物感を俺はすごく
 感じたんだ。鳥肌が立つような……背筋が寒くなるような……
 胸がざわつくような……奇妙な違和感、不快感、圧迫感だよ。
 君に分かるかな? 人が大好きなこの俺が、唯一、君のことだけは
 好きになれなかった。驚いたけど、気になったのも事実なんだよね。
 だからこうして、わざわざ君のことを待ってたってわけ。

 ――君は何? 人間? 人間外?



軽く身振り手振りを加えながら一気にしゃべり倒した折原臨也は、
最後にそう訊いてきた。

長ったらしい問いかけに対してそのまま答えてもいいなら、
あたしは普通に人間だと答える。
答えるしかない。
だって、あたしは人間外になった覚えなんてまったくない。

だけどそんな答えは、望まれていない。
あたしに視線を合わせて笑っている折原臨也の目は、許さない。

折原臨也の細くて長い指がするりと動いて、あたしの左頬に触れる。
身体は硬直したけれど、びくんと、心臓がすくむ。
呼吸が、しにくい。

――間を切り裂いて、耳に飛び込んできたのは馬の嘶き。
安心して涙が出そうになった。





薄闇の追求に痺れる、いとも容易き

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