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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

第4章 台風5号 ヤサシスギルココロ(3)





音を立てないよう、静かに玄関の扉が開かれる。
現れた顔が、玄関先に座る私を見て驚きに変わった。
私は口元に笑みを浮かべると、硬直している彼の手を引く。
そのまま部屋へと移動した。

ベッドに座らせて、前髪を優しくかきあげる。

――右の瞳がなくなっていた。
本来黒く染まっているべき場所は、ぼんやりと白い。

そっと眼鏡をはずして、侑子さんから貰ってきた眼帯をつけると、
ようやく居心地悪そうに肩が動く。
思わず頭を撫でると、力を込めていた眉間がふと緩んだ。

「おかえり、君尋」
「……ただいま、雪里さん」
「隻眼になると距離感が掴めなくなるらしいから、動く時には充分
 気をつけてね」
「うん」

頷いて、小さく笑う。

自覚はないだろうけど、優しいこの子もちゃんと分かる時がくる。
犠牲的な優しさがどれほどに残酷なのか。
君尋を大切に思ってる人たちを、どれほど傷つけるのか。

……まあ、とはいえ。
まったく前の記憶がない私が言えることじゃないんだけど……。
前の自分がどんな風だったのかなんて、知らないし。

かなりの自己満足かもしれないっていうのは、分かってる。
だけどこの先ずっと記憶が戻らずに過ごしていくなら、
今の私のままで、これからを生きていくだけだと思うんだ。

「……雪里さん、ありがとう」
「別にこんなのどうってことないよ」

そう、どうってことない。
私にはこれからの君尋に比べたら、これくらいどうってことないから。

だから気づいて。
ひとは、ひとりじゃないんだよ。





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