家がないだの、こんなとこ知らないだの、意味不明なことばかり。
ボロボロとみっともなく泣きながら、まるで迷子の子供みたいに
愚痴をこぼし続ける。
セルティは隣に座って、優しく頭を撫で続けてくれた。
溢れる思いのまま愚痴を言いつくすと、ようやく涙が止まってきて、
袖口で目元をごしごしとこする。
するとセルティが慌ててあたしの手を止めて、スーツのどこからか
良い香りのするハンカチを取り出して、そっと拭ってくれた。
……セルティ優しいなあ……。
「……えと、ありがとうございます……」
『どういたしまして』
いつのまに打ってたのか、目の前に出された PDS の文章を読む。
「……あの、何か本当にごめんなさい……いきなりこんな、
変に泣きだしちゃったりして……。あ、もう大丈夫ですから!」
『いや……』
「と、とりあえずもう少し明るいとこに行ってみますね。このままずっと
公園にいるわけにもいかないし」
ずっと住んでたアパートがなくなってたから帰れる場所はもうないし、
警察に行っても変な顔されるだけだろうし。
たとえ帰る家がないってことだけ言えたとしても、ただの家出か悪戯だと
思われてさっさと追い返されるかもしれない。
むしろ、病院に行けと言われそうな気がする……。
『良ければ、私の家に来る?』
思いがけない言葉に、あたしは思わずセルティの打ち出した文章を、
まじまじと何度か読み返した。
「それは――だって、悪いです! そんなこと!」
『でも、ここで放り出したら私は鬼だよ。これもきっと何かの縁なんだから、
気にしないで』
だって、マンションには新羅もいるじゃん。
あたしが混乱しながらそう思ってたら、セルティはさっと携帯を出して
目に終えないスピードでメールを打ち始めた。
数秒で完了したその動作には、やっぱり一分もかからないまま返信がきた。
一つ頷いてみせてから、あたしの手を優しく取ったセルティは公園の前に
止めてあるバイクの方に歩き始める。
黒いバイクの前でセルティがあたしの頭にかぶせたのは、きっと、
セルティとおそろいの猫耳ヘルメット。
あたしは初めて憧れていたバイク――しかもまさかのシューターに、
乗ることが決定したらしい。
戸惑って、それでも嬉しくて。