ふと気がついてみると、いつのまにか騒動は終わってた。
だけど道路に無残に落ちてる半壊の自販機とか、ひしゃげた標識とか、
砕けたコンクリートは全て本物で。
目の前で繰り広げられたことは、夢でも嘘でも幻でも妄想でもなくて。
さっきまでのは、本当に現実で起きたこと。
騒動の中心にいた二人の姿はもうどこにもなくて。
周りの人々は、さも慣れたように残骸が残る場所を避けて歩いて。
“池袋” にいる人たちにとっては、あの騒動は日常で。
電車を降りたそこは―― 『デュラララ!!』 の世界でした……?
そんな間の抜けた言葉が、頭の中に出てくる。
……一般からには白けた目で見られるかもしれないけれど、
あたしは世間で言うオタクという世界の人間でもある。
学生だった時よりも社会人になってからオタク度が下がってるとはいえ、
今でも二次元は趣味から切り離せてない。
その趣味の一つとして、二次元を舞台にした小説も書いてるし。
今のあたしの状態は、まさに大好きな設定である “異世界トリップ” だと
言っていいんじゃないかと思う。
でも、それでもあたしは、普通に常識を踏まえてる部類のオタクだと、
あえて公言したい。
それこそネタとして言葉にすることはあっても、本気で現実と2次元を
重ね合わせたことはないから。
……だけど、あたしがさっきまでこの目で見ていたのは、今大人気の
ライトノベル 『デュラララ!!』 のキャラクターたちだった。
関わっちゃいけないと言われてる人物のうち、2人――
“平和島静雄” と、 “折原臨也” の喧騒。
現実的に “トリップ” を夢だと言えないあたしがいる。
現実的に “トリップ” が嘘であってほしいあたしがいる。
あたしはただ、外側からこの世界を楽しめたらそれで良かった。
こんな現実を突きつけられて。
何も見なかったと、あたしは普通に過ごせない。
あたしは傍観者でいたかった!!
声が出ないほど、痛切に叫んだ。