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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

Run to the future.(ハリポタ/シリハリ)


※BL
※09年ハリー誕生日記念




腕時計を確かめる。
待ち合わせた約束の時間まで、あと2時間以上。
思わず、苦笑が口元に浮かんだ。

楽しみだ、と笑っていた昨日の声が蘇る。
けれど本当に楽しみに思っていたのは自分らしい。
良い歳をした大人が、しかもガタイの良い男が、これほどに
浮き足立っているとは。
きっと待ち合わせ相手も思ってはいないだろう。

「まったく――子供だな」

あの子は一種の憧れを自分に抱いている。
ほとんど覚えていない、父親と母親に対するように。
何でも出来る完璧な兄に対するように、新しい家族に。
だから出来る限り完璧な姿を見せていたい。

そう分かっているけれど慕われることは嬉しい。
どうしようもなく、嬉しくて幸せだ。
いや、そんな思いになったのは、名付け親になった瞬間から。

自分のことなど最初からお見通しだったんだろう。
親友のためなら、この身を捨てて守ろうとした意思を。
あの頃の自分は呆れるほど執着がなかった。
大切な親友たち以外には、何も。

だから引きとめようとしてくれたんだろう。
子供の名前を、名付ける意味を与えてくれることで。
引き止めるどころか――いっそ笑えるほどに、目論見は大成功だった。
学生時代にしたどんな悪戯も目じゃないぐらい。

全てが誇らしかった。

小さな手が自分に伸ばされることも。
たどたどしく名前を呼ばれることも。
大きな目を輝かせながら笑うことも。

全てが、誇りに思えていた。

自分のハリーに対する溺愛ぶりには、周りも驚いていた。
驚きが慣れてきた頃には微笑ましい顔で見られて、微笑ましさが慣れて、
最後にはもう呆れられていた。
どちらが親だか分からないと、いつだってそうからかわれていた。

からかいと言えば――。



「……ん?」

ふいに。
名前を呼ばれた気がして、シリウスは思考から切り離される。
辺りを見回すと通りの向こうから走る少年の姿。
もうそんな時間かと腕時計を見やった。
けれど、時計の針はまだ約束の1時間前を示していた。
驚いたシリウスは目を瞬かせる。

「あ、シリウス! ごめん、待たせて!」
「ハリー?」
「はーっ」

全速力で駆けてきたハリーは、迷わずシリウスの腕の中に飛びついた。
そして疲れたように、ぜえぜえと肩で息をつく。
とりあえずシリウスはハリーの背中を優しく叩いた。

「待たせられたというか――ハリーが早いんだよ。約束の時間まで
 あと1時間もあるが……?」
「あはは……」

ようやくハリーの息が整ってきたころになって、自分のことを棚にあげて
シリウスがそう訊いてみる。
すると、ハリーは多少照れくさそうに肩をすくめた。

「実は、楽しみすぎたせいか早く目が覚めちゃったんだ。これでも
 ゆーっくり準備してきた方なんだけどね」
「そうなのか……。いや、そこまで楽しみにしてもらえると、私も
 提案したかいがあるというものだ」
「だって僕、話を聞いた時からちゃんと乗ってみたかったんだ!
 これ――シリウスの空飛ぶバイクに!」

ハリーは目を輝かせながら、シリウスが腕を組んで軽く寄りかかる
大型のバイクに触れた。

太陽に照らされる、つややかな黒の光沢。
大きさから言ってもごつく見えていいはずなのに、どこかしなやかさを
感じるフォルム。
このバイクはシリウスが卒業記念に買ったバイクだ。
友人が持っていたマグルの雑誌に載っていたバイクの写真が、
無関心だったシリウスを振り向かせた。
普通にバイクに乗ることも好きだが、クィディッチをしていたせいか
箒で空を飛ぶことも好きだったシリウスは、バイクを買ったその日に
魔法をかけて空を飛べるように改良した。

ちなみにハリーが生まれた頃、シリウスは別売りのサイドカーを買って
バイクに取り付けていた。
そしてハリーは、そのサイドカーに乗ったことがある。
しかし、いかんせん寝ている赤ん坊の時に乗ったからか、まったくと
言っていいほど覚えていない。

シリウスのバイクがようやく手元に戻ってきたと聞いたハリーが、
興味を持たないわけがない。
それを悟ったシリウスが、バイクで遠出することを提案したのだ。

バイクに見入っているハリーの姿に、シリウスは目を細める。
そして、楽しげな表情にくすりと笑い声がこぼれた。
先ほど思い出しかけたことが浮かんできた。
きょとん、と振り返るハリー。
くすくすと笑いながら、シリウスは手を振る。

「ああ、いや、悪い。ちょっと昔のことを思い出してね」
「昔のことって?」
「……ハリーの1歳の誕生日のことだ」
「え、僕の?」
「ああ」

驚いた表情でハリーが訊き返す。
ハリーが話してとせがみ、またシリウス達から話すこと。
やはり当然であるかのように、ハリーが知らず、シリウスたちが知る、
彼の両親のことばかりになってしまう。
だから余計、驚いたのだろう。
昔の自分を思い出されたという珍しさに。

「私はその日を、今日のハリーのように楽しみにしていてね……。
 プレゼントを持って、約束の2時間も前に君の家へ出かけて
 行ったんだよ。ジェームズには呆れられたな」
「1時間も……」
「実はね、そこでも乗り物の話が出たんだよ。私がプレゼントに持って
 いったのは、軽く浮く箒のおもちゃでね。子供が乗っても落ちないよう
 魔法がかけてあるものだったんだ」

目前に懐かしい光景が見えるのか。
シリウスは遠い目をする。

「私はさっそく君を乗せて手を離した。――そうしたら、ハリーは喜んで
 部屋の中をびゅんびゅん飛んだよ。これはもう最年少シーカーになると、
 ジェームズと2人で騒いでいたよ。何せ、箒のデザインがシーカー用
 だったからね。……結果は知っての通りだろう?」
「えっ、あ……う、うん……?」

ぽかんとハリーは口を開く。
結果――ハリーは確かに、最年少シーカーの座を射止めた。

「ただ、そのあと帰ってきたリリーに大目玉をくらった。危ないから、
 やるなら狭い部屋じゃなく、広い外でやれとね」
「母さんが怒る所ってそこなの……?」
「私たちもそう思ったよ。論点はそこなのかと」

唖然としている顔を見て楽しげに笑いながら、シリウスはハリーを
バイクの後部座席に座らせる。
ようやくそこで我に返ったハリーはバランスを崩さないように、
自分でも座る位置を調整する。

今なおクィディッチ・チームでシーカーを現役で続けているからなのか、
ハリーはバランス感覚が特に優れている。
バランス感覚はバイクを運転するにも必要なものだ。
きっと上手く乗りこなせるだろう。
そう思ったシリウスは、微笑みながら訊く。

「ハリーはバイクの免許を取らないのか?」
「うーん……確かに多少は興味はあるんだけどね。とりあえず車の方は
 いつか取ろうとは思ってるよ」
「それなら。私はハリーの車に乗ろうか」
「あはは、そうだね!」

元気よく笑うハリーにシリウスも笑う。
来年になるのか、それとももっと先の未来か。
けれど見えない将来ではない。
必ず果たせる、約束された未来だ。


「誕生日おめでとう、ハリー」
「ありがとう、シリウス!」





END. (未来へ走ろう)

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