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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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5万企画 5 願叶・未来編


※5万企画第5弾
※ハリー×『願叶』のハルカとシリウスの娘
※だいぶ離れた年の差
※ハリー視点



<願叶・未来編>

IF?~悩むハリーはナイト編~


「緊張してるかい?」

横から投げかけられた声に、はっと意識が浮上する。
慌てて振り向けば、恩師であり家族であり――同僚の姿があった。
いつも穏やかな笑みを浮かべる彼だが、今向けられているのが、
どことなく意地悪そうな笑みであるのは錯覚ではないはずだ。
はあ、と溜息をつく。

「……するに決まってるじゃないか」
「だろうね。私も初めてこの場に座った時は緊張していたよ。
 2度目の今は、そうでもないんだけれどね」
「さすがリーマス……」

僕とリーマスが座っているのは、家のソファじゃない。
昔、僕たちが通っていたホグワーツの、教員側のテーブルだ。
僕が3年生の頃に、リーマスは1年間だけこの席に座っていて、
今年からまた座ることが決まった。
一方で、僕はこの席に座って2年が経つ。
普段だったらともかく、公式な場ではまだ慣れてない。

こうして新入生の入場を待つ時とかね。

僕は手元のグラスを引き寄せ、冷たい水を一口飲む。
さっきから何度、水を飲んでいるのかも忘れてしまった。

「ハリーには、緊張する理由があるからね。特に今年は」
「ッ! ……リーマス」

にこにこと悪気なく言われて、思わず水を吹き出しかけた。
全力で冷静を装いながら、ぐっと飲み込む。
じとりと見やれば、にこにこと笑って僕を眺めるだけ。

悪気はないんだ、からかってるだけで。

テーブルにグラスを置いた時、ちょうど時間になったらしい。
教師の合図でざわめく大広間が静まり、ゆっくり扉が開く。

教頭に率いられて緊張したような、期待と不安に満ちた表情の
新入生が入ってくる。
1人、また1人、名前を呼ばれては組み分け帽子をそっとかぶり、
これから過ごす寮のテーブルへと足を進めていく。
思わず自分の組み分けを思いだし、懐かしくなってしまう。

そして、待っていた名前が呼ばれた。

ハセガワカナタ!」

列の中から足を踏み出すのは、顔を輝かせる少女。
肩ほどの黒髪を揺らして椅子に座った。
なにごとかを帽子と話していたが、すぐに帽子は叫んだ。





歓迎会が終わり、それぞれの寮へ案内される新入生を見送って
僕も自室へと戻る。
明日の授業は午後からだし、朝は少しゆっくり出来る。
そんなことを考えながら自室に入ろうとすると、近くの柱から
小さな影がぴょんと飛び出して、僕に飛びついてきた。

「ハリー!」
「えっ、カナタ? 寮に行ったんじゃ……」
「えへへ、抜け出してきたっ!」
「抜け出してって……ああもう、とりあえず入って」

悪びれもなく笑顔で言うカナタに、頭痛がする。
とりあえず風邪を引かせるわけにもいかず、誰かに見られると
まずいと思って部屋に入った。

いや……入れるのもまずい、ような……。

「……カナタ、改めて入学おめでとう」
「うん、ありがとっ! グリフィンドールで良かったー、嬉しいっ!
 ママとパパ、ハリーとリーマスと、みーんな一緒だねっ!」

僕の腕に抱きついて、嬉しそうに笑っている少女。
カナタは、僕の家族であるシリウスとハルカの一人娘だ。

忘れもしないあの夏の日。
正式におじさんの家を出ることを許された僕は、名付け親であり
後見人のシリウスと、姉のような人であるハルカ、2人の友人である
リーマスが住んでいる今の家に住むことになった。
それから1年後に生まれたのがカナタ

ずっとずっと、成長を見守ってきた大切な少女。

「とりあえず……目的もなく夜に出歩いたりはしないように」
「でも、パパはそれが醍醐味だって言ってたよ?」
「シリウスの言うことを鵜呑みにしない」

娘になんてことを教えてるんだ、シリウスは。
とはいえ、どうせリーマスも似たようなことを言うだろうし、
僕も夜に出歩いて罰則受けたことあるし、今だって透明マントや
地図も持ち続けてるし、ハルカだって……。

「それに目的はあるよ。ハリーに会おうと思ったんだもん。
 ハリーは先生だから昼間に会えないでしょ?」
「そういうことじゃなくて……」

不思議そうに、きょとんと首を傾げるカナタ
ああ、駄目だ……本当に分かってない。

純粋というか天然というか、真っ直ぐと言ったらいいのか……
カナタは決めたことには一直線な上、頑固で譲らない所がある。
こういう性格は、ハルカにすごく似ていると思う。

カナタ、何もゴーストだけってわけじゃないんだから」
「あ、見回りの先生とかでしょ?ホグワーツの隠し通路はだいたい
 パパとリーマスに聞いて、覚えてるからっ!さっきも隠し通路で
 ここまで来たんだよ」
「……その時、ハルカは何か言ってなかったの?」
「ママ? ママは確か、完全に血だねーって」
「(止めてよハルカ……!)」
「それにハリーがいるでしょ? 私のナイトだもんねっ!」

頭痛がするというより、頭を抱えたくなってきた。

「とにかく……近くまで送るから、カナタは寮に戻って。明日から
 授業があるし、朝も弱いんだから。ホグワーツでも寝坊が多いなら、
 ハルカに吠えメールをお願いするよ?」
「う、ママに怒られるのはやだ……分かったよー」

肩をすくめるカナタを宥め、見つかるわけにもいかないから、
また隠し通路を通って寮の近くまでカナタを送る。

「お休みなさい、ハリー。また明日ねっ!」
「はいはい、お休み」

お互いの頬に軽くキスを交わし、手を振って別れた。
ちゃんとカナタが隠し扉の向こうに消えるのを確かめてから、
ようやく自室に戻った僕は、ふかーい溜息をついてしまう。

「ナイト、ナイトって……」

ナイト――言葉通り、僕がカナタを守るということ。
それは、カナタが生まれた時にハルカから頼まれたことで、
同時にカナタが僕を誰よりも信頼してる証。
昔はそれでも良かったんだよ……ハルカに頼られることだって、
カナタを守れることだって僕は嬉しかったし。

ただ、信頼されすぎるのも複雑だなんて、知らなかったんだ。
カナタ自身に他意がないことが、救いなんだろうと思う。

「守るよ――大丈夫、大切な家族だから」

刻み込むように、静かに呟く。
慣れてきた胸の痛みに気づかないように。

今更だろうとね。





END.

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