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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

5万企画 7 孫夢編


※5万企画第7弾
※連載中の『孫世代トリップ小説』で夢小説
※ただの出会い編



<孫夢編>

IF~孫世代トリップ設定で夢・選択編~

 


――呼吸している。

自覚しながら、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。
暖かく柔らかな居場所を求めて、身体をそっと丸める。
少しずつぬくもりに包まれていく心地よさ。
暗闇が明るくなるものの、あまりに遠く――。

どん、どん。

水面を震わすような重い響き。
沈みかけていた意識が、ぎこちなく浮き上がった。

どんどん、どんどん。

急かすように、響く振動の間隔が短くなる。
振動も先ほどよりは大きいだろうか。
ぎこちない浮上によって、心地よさは後味が悪くなった。
このまま、揺らめくまどろみに縋っていたい。
だが、このままでは後味が悪いどころでは済まなくなるはず。

渋々と、鉛のように重い瞼をこじ開ける。
窓からはきらきらと輝く朝陽が溢れていた。

布団から手を出すと、ひやりと空気がまとわりつく。
だんだんと冬めいてきたとはいえ、石造りである城の中は
気候以上に冷えるものだ。

シュウ、起きないなら置いていくわよ!」

遠く、扉の外から高い声がする。

あれは大切な友人の声。
さらりとした赤毛と、澄んだ緑の瞳はとても綺麗だ。
何事にも生真面目だが、女性らしい魅力を持っている所は、
ここへ来る前に友人であった子と似ている。
何を怒っているのだろうか、とっくに起きているのに。

――起きている?

かっと目が見開き、ばさりと布団を跳ね上げた。
慌てて引き寄せるのは、ナイトテーブルの置時計。
2本の針は、いつもの時間よりも大きく進んでいた。

「寝坊だッ!?」
「もう……やっと起きたのね?」
「起きた、今起きた! ありがとリリー、超愛してる!!
 先に大広間行ってていいよ、5分で追いつく!」
「分かったわ。面倒がらずに、きちんと髪も梳かすのよ?」
「ジェームズ以上に愛してる!!」
「遠慮するわ」

リリーの足音が遠のく。
用意していた制服を取り、布団の中でバッと着替える。
洗面所に駆け込んで顔を洗い、とても面倒だけれど言われた通りに
きちんと髪も梳かす。

『手櫛でな』

ぼそりと言われた言葉は全力で無視する。
ローブを羽織り、教科書の入っているカバンを掴んだ。

「行ってきます!」
『おう』

枕元で丸まる相棒の梟に声をかけ、寮を飛び出す。
走りつつ髪をひとつにゆるく束ねて、ネクタイを締めた。



ホグワーツで過ごして、3年目になる。
それまで一般人だった私はあるきっかけを得て、魔法を学ぶ
ホグワーツに途中編入することになり、1年を過ごした。
1年目の最後。
友人が関わっていたある事件に、ふとして巻き込まれてしまい――
まったく原因さえ分からず、私は過去のホグワーツへとただひとり
放り込まれてしまったのだ。

帰れないまま過去のホグワーツで2年を過ごしてしまい、ついに、
5年生にまで進学してしまった。



にぎわう大広間に入っていくと、私に気づいたリリーが軽く
手を振って居場所を教えてくれる。
幸いにも隣の席は空いていて、安堵して腰を下ろした。
手早く締めたために歪んでいたらしいネクタイを見かねて、
溜息をついたリリーにさっと直された。

私は耳をふさげるように身構える。
リリーのお小言にではない、彼女に恋する男の声にだ。
――しかし、羨ましそうに響くいつもの声はない。

思わず私は、そっと向かい側に座るジェームズを見やる。
珍しくもジェームズはこちらに目もくれず、楽しげな表情で
教員テーブルの方をじっと見ていた。
よくよく気づけば、彼の隣に座っている友人たちさえも、
同じようにしている。
悪戯をしている時のような雰囲気ではない。
私が視界に認識したのは、校長の姿くらいだったが。

何かあるのかと教員テーブルに目を向けようとした所で、
マクゴナガル先生がグラスを叩いて大広間を静めた。
ぐるりと大広間を見回した校長が、にこりと笑う。

「さて。朝食の途中なのじゃが、少しだけ聞いてほしい。
 改めて紹介しようかのう」

校長の言葉に、隣に座っていた男性が立ち上がる。
紹介――そういえば『防衛術』の先生が辞めたと聞いた。
怪我をして授業が休止していたため忘れていたのだが、
ようやく引き継ぎの教師が見つかったのか。

「新しく『闇の魔術に対する防衛術』を教えることになった
 アルフォード先生、そして助手のトンクス先生じゃ」
「初めまして、ハリー・アルフォードです。よろしく」
「助手のテッド・トンクスです」

立ち上がって挨拶をする男性と、隣に立っている青年。
続いて校長は、後ろに控えていたらしい生徒を前へと誘う。

「僕はジム・アルフォード、グリフィンドールの5年だよ!」
「こほん。……弟のアルバス・アルフォードです」
「妹のルーナ・アルフォードです」

沸き起こる拍手、特にグリフィンドールの大きな拍手の音。
幸いにも驚きによる私の悲鳴は、かき消されてしまった。
教師と生徒の挨拶が終わって朝食の時間に戻る。
それでも、大広間は先ほどよりにぎやかにざわめいていた。

唖然としながらクロワッサンをもそもそ食べていると、
ジェームズとシリウスが話しているのが耳に入ってくる。
どうやらジェームズたちはすでに彼らと知り合っていたらしく、
リーマスやピーターも興味深く思っているようだ。
否定しないあたり、リリーさえもきっとそうなのだろう。

だが――だが――私は、混乱している。

アルフォードと名乗っているが、私は本名を知っている。
彼らがいるべき “場所” は、ここではない。

何故なら男性は――ハリー・ポッターは未来にいる少年で、
彼の家族はさらに未来にいるべき存在であるのだから。
私がハリーと友達だった時代よりも、はるかに遠い先の時代に。

シュウはどうだい!? 興味あるだろう?」
「ぐっ」

目を輝かせて身を乗り出してくるジェームズ。
クロワッサンが喉に詰まりそうになり、慌てて紅茶を飲み干す。
口を開閉する私に、シリスウが怪訝そうな顔をした。

「何だよ、シュウにしては歯切れ悪いな」
「そんなことは……!?」
「あ、もしかして」

リーマスがくすっと笑った。

シュウってば、一目惚れでもしちゃった?」

どうしてそうなるのかと、絶句してリーマスを見やる。
しかし、それが周囲に完全なる誤解を招いた。

「はあっ!? おい、マジかよ!!」
「その反応はつまり初恋なのかな!? シュウ!!」
「本当!? 誰、誰に一目惚れしたの、教えなさい!」
「わあ、一目惚れする所って初めて見たよ」
「あははははははははは、シュウ、おめでとう」

信じられないものを見るかのような目のシリウスを、
恋の素晴らしさを朗々と語り始めるジェームズを、
心配しているらしく詰め寄ってくるリリーの追求を、
頬を染めてほのぼのと私を眺めているピーターを、
心の底から楽しんでいるだけのリーマスを振り切り。

私は全速力で寮の部屋へと駆け戻った。

「オビアーッ!!」
『うるせぇ』

出窓の所で羽繕いをして寛いでいた相棒のオビアは、
飛び込んできた私をぎろりと睥睨する。

「オビアどうしよう孫世代が親世代に! 孫世代が親世代なのに
 子世代スキップで親世代に孫世代が!!」

『ゲシュタルト崩壊しそうだな』
「どうでもいい、そんなの!」
『良くねぇ。とりあえずお前が出来る行動はこうだな』

嘴に何かのメモを銜えて寄越す。
メモには何やら細かく、綺麗な文字が綴られていた。



選択1:授業に戻る(2時間目が防衛術)
 選択2:校長に突撃(理由を知っている)
 選択3:教師に突撃(直接会い話を聞く)
 選択4:生徒に突撃(直接会い話を聞く)
 選択5:全て忘れる(知らぬ振りをする)
 選択6:初恋を肯定(突き進むしかない)



「これは何ですかオビアさん。特に選択6の辺り」
『そりゃあ、お前よ』

梟だというのに、オビアはニヤリと笑う。

『やっぱり始めの選択は多いほうが、後々面白くなるだろうが?
 ルート的に』
「意味が分かりません!」

誰か梟の言葉を、私にも分かるように意訳してほしい。
私にとって一番無難な選択肢は2か5だろうかと、
本気でぐるぐると考え始めてしまう。
そんな私は、梟の選択肢にすでに嵌められているのだろう。





END.

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