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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

5万企画 4 傍観編

 
※5万企画第4弾
※傍観の円舞曲×ハリポタ・親世代



<傍観編>

IF~フェルが親世代と知り合いだったら~
 
 





小さな教会の小さな鐘。

純白の衣装に身を包んだ2人を祝福するかのように鳴り響く。
新郎新婦を取り囲み笑いあうのは、数人の友人たちだけ。
そんな小さな結婚式の中でも、幸せそうな笑顔が一番に輝いていた。

ふいに、新郎が友人の肩越しに見えた人物に気がついて、
嬉しそうに手を振り上げた。

「フェル先生っ!! お久しぶりです!!」
「うん、久しぶりだね。今日はお招き有り難う、そしておめでとう。
 ジェームズ君、リリー君」

幸せな雰囲気を纏う新郎新婦の2人に、フェルは片手を上げて
柔らかく微笑んだ。
フェルの出で立ちはスーツではなく、見慣れたいつもの白衣。
研究室からそのまま出てきたような格好だ。
それに苦笑するのは、新郎の隣に立つ黒髪の背の高い青年だった。

「……っていうかその前にフェル先生……結婚式に白衣はないと
 思うんですけどー?」
「そういうシリウス君は……ああ、ちゃんとスーツだね。……でも、
 シリウス君はやっぱり黒が似合うかな」

フェルは微笑みを苦笑に変える。
青年の格好を見回しながら、ひとつ頷いた。
すると、そのまた隣から鳶色の髪をした青年がくすくすと笑いながら
便乗する。

「あ、フェル先生もそう思いますよね?けどシリウスが結婚式は
 絶対に白だろって言い張ってて」
「あ、てめっ……んなことバラすなよ、リーマス!!」

暴露した青年の口を、顔を赤く染め慌てて抑えようとするが、
青年はひらりと軽くかわしてしまった。
それを見聞きして爆笑しているのは、もちろん新郎である。
新婦は新郎の横で「またやってるのね」とくすくすと笑っている。



微笑ましく平和な、幸せな、誰もが望んでいた結婚式だった。
すでに闇の勢力が強まっているなどと――。
そんなことを、一体、誰が口に出来ただろうか?





「2人は裏切り者が誰なのか――もう分かってしまっているんだね?」
「はい……でも僕は信じたかった……。闇に負けてしまったから、
 もう僕たちの声は届かない」

悲しく笑みを浮かべ、そっと瞳を閉じる教え子。
彼の頭を、フェルは優しく撫で続ける。

「君たちは、僕の教え子の中でも聡明だったよ。アルバスさんでも
 成し遂げられなかったことを、ただ親友の為にと、いくつも
 いくつも成し遂げてしまったんだからね」

青年の頭から手を離し、そのまま眠る赤子を抱いて悲しげにフェルを
見上げる女性の頭も撫でる。
俯きながら「そんなことは」と青年が呟く。
だが、フェルはゆっくりと首を横に振ってみせた。

「親友の為のどこが“そんなこと”なんだい?」

フェルは女性の頭から手を離し、今度は安らかな寝息を立てる赤子の
頭を起こさぬように撫でる。
熟睡しているようで、起きる気配はまったくない。

「――負けたのではなく捕らわれてしまったんだよ。あの子は、
 勇気ある者が住まう寮の1人だからね。それほどヴォルデモートの
 誘惑は強く甘美なんだよ。声は届かなくても心は届くはず……
 君が信じていたなら、あの子はいつか闇から抜け出せるよ」

手を離したフェルは、青年の抱いている赤子の頭を撫でた。
赤子は始めから起きていたが、フェルの手が心地よかったのだろう。
ややすると、ゆっくり瞳を閉じてすやすやと眠ってしまった。
フェルはその様子を見て淡く笑い、青年と女性を見る。

「先生……。僕は、僕たちはここで終わらせる気はありません。
 でも逃げる気もありません。」

青年は悲しげな微笑みから、きりっと真剣な表情へと変えて
しっかりと言い切った。
それを聞いた女性も、青年に寄り添いながらフェルを見上げて言った。

「私もジェームズと同じ気持ちです、フェル先生。愛する家族を
 守りたいから……」

フェルは2人、いや4人をじっと見つめていたが、しばらくして
安堵したような微笑みを浮かべた。

「さすがジェームズ君とリリー君。出来ることは全て手伝おう――
 護るべき君たちの為に」

フェルが言った言葉に、青年と女性は前から決めていたように
顔を見合わせて頷いた。

「では、校長先生と共同作業をお願いします……フェルリオス先生」
「何だい?」
「――“忠誠の呪文”を、使うことに決めました」





意識が浮上し、フェルはゆっくりと目を開けた。

ぼやけていた視界が徐々に鮮明になり、見慣れた天井が現れる。
そっと身体を動かせば、キィとロッキングチェアが揺れた。
フェルとしても研究室ではなく、カウンターで眠ってしまうことは
珍しいことで、何故カウンターにいるのか考えてしまう。
あまり時間をかけずに、来客の対応をした所まで思い出した。

元気な養い子は、朝から外に出かけている。
どうやらまだ帰ってきていないらしい。

「それにしても……懐かしい夢だな」

くすりと苦笑してしまう。
昔からはっきりとした夢を見たことがないフェルだったが、
はっきりとした夢を見る時には、必ず意味があった。

カレンダーを見て、あと数日で例の日が来ることを知る。
フェルが生涯、一度だけ誓った日が。

「……ああ、なるほど」

明日にはきっと、手紙が来るのだろう。
とてつもなく長々とした、両親とその親友から。

自分が教え子に向けたような、見守る言葉で。





END.

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