忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

御身と離れようとも(大神・大神伝)

  
※支部に投下した漫画を小説に直したもの
※出てくるのはウシワカとミスター。
※大神伝未クリア時に書いたものなので、妄想が入っている。
 




揺れる灯りの下で文字を綴っていた男は、ふと顔を上げる。
外へと目を向けて耳を傾ければ、闇夜の中に微かな音が流れていた。

「(笛の音……)」

京の都の中で、笛の音は特に珍しくはない。
横笛も貴族のたしなみの一つだからだ。
男が好んでいるのは琵琶だが、笛もある程度は吹ける。

しばらく黙して笛の音を聞いていた男だったが、静かに筆を置いた。



薄く浮かぶ満月を仰ぎながら、青年は目を閉じて笛を吹いていた。
心に浮かぶまま、即興で音に乗せて吹き流している。
ひたりと己にまとわりついていた闇が風に揺れるのを感じて、
青年はゆっくりと目を開く。
同時に名が呼ばれた。

「ウシワカ」

笛を吹くのを止めて、ウシワカは振り返る。

「帰ってきていたのか」

ウシワカの背後に立っていたのは、笛の音に気づいた男だった。
腕を組んでいた男は、ウシワカの驚いたような表情に眉をひそめた。

「……何だ? その呆けた顔は……」
「ふふ……」

ウシワカはくすりと微笑む。
呆気にとられたのは確かだったからだ。

「ソーリー、ソーリー。まさかユー自ら、ここまで来て頂けるとは
 全然思っていなくてね」

ウシワカと男が立っているのは、都一面が見下ろせる高い屋根の上。
普通の人間であれば到底登ることが出来ない場所だった。
職場であったり、高い場所で笛を吹くことが好きなウシワカは、
このような場所にも立つことが多い。
だが、貴族の男が立っていて自然な場所ではなかった。

「菅原道真公」
「“我々”にはこれしき苦にもならんことだ」

確かめるように名を呼ばれた道真は、微笑する。

道真は烏帽子と髪を隠す長布を取り払う。
ばさりと落ちて夜風に揺れるのは、光に輝く金の髪。
眩い月の色は、ナカツクニでは存在しない。
そのため人目と好奇に晒されないように、普段は隠している。

目の前にいるウシワカは男の髪の色を元々知っていたこともあり、
特に隠す必要はなかった。

「――して、ウシワカよ。我らが慈母はいかがしておられる?」
「今は神木村で疲れを癒しているはずだよ」

大規模な決戦を終えた白き姿の大神は、己を祀っていた村でゆっくりと
過ごしている。
長く間近にあり、傍にあった神木村が一番落ち着くのだろう。

「でも」

けれどウシワカは言葉を続けた。

「アマテラス君たちはすぐに都に出てくるだろうね」

ウシワカとしては、すぐにでも京まで来てもらいたい所だった。
英気を養うのは当然だが、ずっと村で過ごしてもらいたくはない。

決戦を終えたとしても、それは一つの始まりなのだ。
妖のいない太平の世となるには未だ遠い。
それに、一緒にいる妖精が筆神を求めてを急かすだろう。

「ふふ……」

しかし話を聞いていた道真は、声に出して笑ってしまう。
珍しい反応に、ウシワカは怪訝そうに尋ね返す。

「ワット?」
「……いや、なに」

道真は口元に笑みを含んだまま、楽しげに答えた。

「慈母がお眠りになられた時のあの狼狽えぶりと嘆きようが、
 嘘のように明るくなったものだ」

ぎくっと肩を震わせるウシワカ。
それこそ珍しい反応に、道真は思わずにやにやと笑む。
飄々とした風体のウシワカの、数少ない動揺だ。

「当時の女王と共に慰めたのが、つい昨日のことだというのにな」
「ス……ストップ、ストップ!」

ウシワカは片手で顔を隠す。
面白がる道真の視線を背中に感じ、首を振った。

「まさか昔のことを持ち出されるとは……」
「ははは。200年とはまこと“長き”季節であった」
「さっきは“つい”って言ったくせに」

声を立てて笑う道真。

動揺していたウシワカは溜息をつきながら気を取り直すと、
道真の言葉について言及した。

「そう言うことは道真公、ユーは本気なんだね。
 ナカツクニに残るってこと」
「うむ」

特に否定もせず、道真は軽く頷く。
笏を取り出しながら京の都を見下ろした。

あまりにも長く居座ってしまったせいか、己の立場のせいか。
それともナカツクニという国を愛してしまったからなのか。
幾夜も天を見上げては、帰り行く日のことを思っていたはずなのに、
今ではもう、都を離れるという選択が出来なくなってしまった。

「これからのナカツクニの発展、民への配偶、貴族の統率、当代の
 女王のこと……色々と気になるのでな」
「ん? ヒミコのことも気になっているのかい?」

道真はそっと笏で口元を隠した。

「(女王よりも、傍にいるあの尼僧……。ウシワカの先見に
  かからないのならば、悪い勘としておけるのだが……)」

しかしウシワカも女王ヒミコも、己の内に問題を隠すことがある。
特にヒミコは京を守る中心であり、高い霊力を狙う妖も多い。
思慮深く未来を見据え、あえて言葉にしないのだ。

ウシワカのように先見の才がない道真は、何も知らない。

「それにしても残念だなあ」

ふいに、傷ついたような声でウシワカが肩をすくめる。

「ミーの部下に戻ってくれると思ってたよ」

あまりの言い草に、道真は力が抜けた。
佇まいを直してウシワカを睥睨する。

「手を貸すのは隊の設立をする時だけだと言っただろう」
「あはは、ソーリー」

ウシワカの属する“陰陽師特捜隊”は、当時の女王や道真、真の事情を
知る幾人かの者の手で作られた組織だ。
本来ならば、100年前に解体されるはずであったのだが。
もちろん道真としては設立までの後押しや、周囲への牽制役として、
己の手を貸していたつもりであり、部下になった覚えはまったく
なかった。

ひらひらと手を振り、ウシワカは踵を返す。

「じゃ、戻るよ」
「ウシワカ、慈母にあまり無礼を……」

道真の言葉を聞き流すように、屋根を蹴って飛び去る。

戻る所が隊舎を指すのか、別の場所を指すのかは分からない。
定期的に戻っては来るものの、ウシワカは京に留まることが少ない。
最近ではほとんど帰って来なくなっていた。

「まあ、奴があのように甘えられるのも慈母のみ。
 本人は解っているのか……」

視線で追いかけていたウシワカの姿が闇に紛れて見えなくなり、
道真は溜息をついて肩をすくめる。

今、天に浮かぶは月。
心に浮かぶ太陽の光とは真逆の光。

それでも道真は両手を合わせ、瞳を閉じた。



「我等が慈母 天照大御神よ 子等の御心を照らし給え」



どうか、健やかなる道を。
どうか、穏やかなる先を。

照らし、導きを。



そしてどうか。



「我等の祈りが御身に光を灯しますよう――」



この祈りが。

この願いが。

どうか。



「我はこの地より切に願っておりまする」



御身に届きますように。




END.

拍手[0回]

PR