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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

願いのアルバム(ハリポタ)


※08年ハリー誕生日記念





ペラ……ペラリ……
ペラリ……ペラリ……


めくっていたページ一枚ごとに心が揺れる。
そこに飾られているのは自分の思い出ではないのだけれど、
色褪せない写真からはたくさんの記憶が浮き上がる。

見飽きる事のないアルバム。

その中では父親が悪戯っぽそうに笑い。
隣に立つ母親が晴れやかに笑い。
横目にした名付け親がシニカルに笑い。
困っているようで嬉しそうに教師が笑い。
おどおどしつつ楽しそうに仇が笑い。
遠くで教師が彼らを眩しそうな目で見て。

とても大切なアルバム。

大切で、大事な人達が写っているこの写真の数々。
何度も何度もページをめくっても尽きない興味。
絶える事のない好奇心と想像力。

彼らは一体何を思って、時を過ごしたのだろうか?
彼らは一体何を想って、時を歩いたのだろうか?
彼らは一体何を守って、時を走ってきたのだろうか?
彼らは一体何を黙って、時を欺いてきたのだろうか?

考えては止め、考えては止め。
それを幾度繰り返しても答えにはたどり着かない。
答えを知る彼らはこの世界にはいないのだから。
ただの一人さえ逝ってしまったのだから。
いくら考えた所で、それが合っているかどうかも分からない。

それでもただ言えること。

両親は僕を愛してくれた。
名付け親は僕を守ってくれた。
教師は僕と戦ってくれた。
仇は最後の最後に憐憫を持った。
教師はずっと母を愛し続けた。

それだけは間違いなく真実だと胸を張って言える。
世間の誰かは信じなくても、自分にとってそれが事実だ。

忘れはしない。

僕に全てを残した人達を。
僕に全てを与えてくれた人達を。



パタン



ゆっくりアルバムの表紙を閉じて静かに目を瞑る。
守ってくれていた愛おしい人達を想う為に。





「パパ?」

目を開けば横から顔を覗き込んでくる少年の顔。
小さくウェーブがかった赤毛が、窓から入る風に揺れている。
一瞬だけ沈黙した僕は溜息をついた。

「驚かすんじゃないよ、ジェームズ……」
「へへっ」

悪戯っぽく笑うその仕草は、父親にも親友にも似ている。
学校から時々来る手紙には彼の悪戯のほどが書かれていて。
初めてそれを知った時は、さすがに血は争えないものだなどと、
自分の事は顧みずに思わず遠い目をしてしまった。

親友やその悪戯好きな兄の話に影響を受けてきたせいか、
この子は本当に顔は似てないものの噂に聞いたり、垣間見た父親と
そっくりに育った。

きっとその名前のせいもあるのだろうが。

「お兄ちゃーん? あ、やっぱりパパの所にいた」

扉が開く音がして、肩下まで赤毛を伸ばした少女が顔を覗かせる。
その後ろからは穏やかな顔をした鳶色の髪の青年。
子供達の兄のような存在である青年は、少し困ったように微笑んでいる。
きっとあの子に引っ張ってこられたのだろう。

「リリー、テディ!」

体を起こしたジェームズは、ぱっと笑って二人を見る。
そして何事もなかったかのように言った。

「今からパパに、おじいちゃん達の話をしてもらうんだ!」
「あーっズルい!! あたしも聞くーっ!!」
「俺も聞きたいですね」

ジェームズの言葉に、リリーとテディが顔を輝かせて賛同する。
しかし話をするとは誰も言っていない。
楽しそうに笑っている息子をじろりと見やって問う。
いや、確信を持っているから問いではないか。

「……ワザとだろう、ジェームズ……?」
「さすがパパ♪」

さすがと言われても……と頭をかく。
確かに話をしてほしいとせがまれる事はたびたびあるものの、
今日のように唐突に、しかも断れない状況を作るなど。
また妻を怒らせるような事をしたのだろう。

「何やらかした?」

しかし、にっこりと笑うだけで返答はない。
……きっと店で買った悪戯道具が部屋を荒らしたんだろう。
書斎からでも二階の音くらいは、聞こえるのだから。

「分かった分かった。アル呼んできなさい」
「はーい」

それだけは軽く返事をして、リリーとテディを連れて書斎を出る。
溜息をつきながら目線をテーブルの上に戻す。
そっとアルバムに触れる。
つかの間、瞳を閉じた。

忘れはしない。

「パパ!」

ぱたぱたと数人の足音とともに書斎へ飛び込んでくる姿。
くしゃくしゃの黒髪と、透き通った緑の瞳。
彼の祖父……ひいては父親である僕に瓜二つの姿。
生れ落ちてその目を開いた瞬間、僕はその名を彼につける事に決めた。

「……じゃあ、始めようか……ジェームズ、アルバス、リリー。
 そしてテッド」

ゆっくりとそう言うと、一斉に輝く四人の表情。
その名前に籠められた意味を。

「君たちの祖父母、両親…名前をもらった人達の、忘れられない話を……」





END.

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