「定春ッ! 定春、こっちネ!!」
明るい髪が跳ねるたび、足元でばしゃばしゃと飛沫が跳ねる。
後ろから追いかけていく姿が跳ね飛ばす比ではないが。
それでも飛ばされる飛沫は太陽の光にきらきらと煌めく。
時に眩しく、時に優しく輝いては波に消える。
それはまるで戦いの時に瞳を光らせ拳や足を奮う姿と似ている。
そして自分は時折しか見れない、無防備で無邪気な笑顔に。
きらきら……きらきらと。
最初の印象は生意気なチャイナ娘。
印象が変わってきたのはいつ頃だったか。
いや、きっと抱く印象は変わってないのだろう。
見るたびに抱く想いが変化しただけで。
「俺もヤキが回ったのかねィ」
ぽつりと呟く。
周りは騒ぎが起こったり自分の世界に浸っている者ばかりなので、
誰も小さく放られた独り言など聞こえずにいる。
あんなチャイナ娘、以前なら歯牙にもかけなかった。
なのに今は歯牙どころか、完全にマイってしまっている状態だ。
そんなことなど死んでも口にはしないだろう。
今の現状が続くならば言う必要もない。
現状に気づくか、変えようと少女が思ったりしなければ。
自分からその関係を壊そうとは思わない。
少女にとって自分は、ライバルのようにしか思われていないのだから。
……それはそれでとても苛立たしい事ではあるが。
とてつもなく自分を不機嫌にさせて、仕方ないのだが。
「何不景気な顔してるネ」
「……あんだよ」
いつの間に目の前にまで来ていたのか。
気配が読めないほど考えに没頭していたと気づき、内心舌打ちする。
「せっかくの海ヨ。楽しまなきゃ損アル」
「おめえに言われなくても存分に楽しんでらァ」
「どこが楽しんでるネ」
バッカ、楽しめるわけねぇだろィ。
口には出さずにそう毒づいて覗き込んでくる顔を見やると、
太陽を背にして影が出来た輪郭を水が滴っている。
無意識にしてはかなり反則だと溜息をつきたくなった。
ふいに口を閉ざして隣にぽすんと座る。
「何してんでィ」
「少し疲れたから少し休むアル。文句あるカ?」
「……旦那のトコ行けばいいじゃねぇか」
「銀ちゃんはマヨラーにからまれてるアル。休もうにも休まらないネ」
指差す方に目を向ければ、殺したい上司とS同士の旦那が一触即発。
というよりいつものようにキレた上司の方が、いつものように
ぼけらっとしている旦那に突っかかっているとでも言えば正解か。
ならば、自分もいつものようにバズーカを撃とうか。
……今はする気にならない。
普段はチャンスとも思うのに今は思わない。
「……? バズーカ撃たないアルか」
「面倒だから後にする」
「やっぱり今日のお前ちょっとおかしいネ」
「チャイナに言われたくねェ」
「何がヨ」
「別に」
言えるかっての。
俺はS星から来たオウジサマなんだぜィ?
ただのチャイナ娘がこうして隣にいるだけで、
他の事がどうでもよくなるなんて。
この俺が軽々しく言えるわけねぇだろィ。
「カキ氷でも買ってくっかな」
「わたしイチゴ」
「何でおめえのぶんまで俺が買わなきゃならないんでィ」
「女の子に金使わせる気アルか? それでも男か!」
「れっきとした男でィ」
END.