……眩しい。
朝陽を見るとそう思うようになった。
些細な事でも俺にとっては、劇的な変化だと言えるだろう。
差し込む光を遮断しようと緩慢に手をあげれば、霞む視界に
嫌でも飛び込んでくる岩の肌。
起きてそれを見るたびに、驚いた頃が懐かしくもある。
いつから、驚かなくなってしまったのだろうか。
正確になど覚えてはいない。
裏で仕事をするようになった頃だろう。
きっと絶望するのに飽きたあたりだ。
忌まわしいこの身体には何度も助けられた。
剣撃、打撃、爆撃……生身の肌だったら死んでいた攻撃も、
この鋼鉄の岩の肌や針金の髪が全て防いだのだから。
力が欲しいと願った代償。
こんな身体が欲しかったわけじゃない。
守りたいものがあった。
護っていきたいものがあったんだ。
だからがむしゃらに、魔法と剣を磨いていたんだ。
足手まといなどならないように、ずっと修行してきたんだ。
守りたいものが護れる力が、欲しかっただけだった。
絶望と。
失望と。
憎悪と。
悲哀と。
この身体を見た瞬間の、俺の感情はあげればきりがない。
何に対してそう思っていたのかすら、分からなかった。
力を与えた張本人か、安易に力を欲した俺か、それとも世界か。
ただ俺は人の枠から外された事に酷く打ちのめされていた。
それからはただ元に戻る事だけを渇望した。
悪事だと分かっていてを抜き、ヤバいことにも足を突っ込んだ。
そのたびに目的に必要なら、相手の命さえも奪った。
だからこそ、あの時まで気づけなかったのかもしれない。
だんだん祖父の道が外れていくことに。
忌むべきは何だ?
厭うべきは何だ?
祖父の心の闇を増幅させていった魔王か?
……分かっているんだ。
もう終わったというのには。
終わったからこうして、身体を戻すことを目的としていける。
こうして朝陽を見て、一日を始めることが出来る。
「ゼルガディスさん、起きてますかー? 入りますよ?」
部屋の外から届く声にゆっくり目を開ける。
それと同じくドアの開く音。
俺はまだ返事もしてないっていうのに。
まったく……こいつは。
「……今、起きた所だ」
「今日はお寝坊さんですね……って、また遅くまで読んでたんですか」
顔をしかめてテーブルの上の書物を手に取った。
仕方ないだろう、執務に必要だったんだから。
あの案件はもう少し細部を練った方がよさそうだったんでな。
おかげでようやく終わった。
しかし。
「アメリア……お前さん、毎日起こしにこなくてもいいんだぞ」
「……それもそうなんですけど、私の特権ですから!」
「特権? 何がだ?」
意味が分からずに首を傾げる。
すると目の前のお姫さんは晴れやかに笑う。
「もちろんゼルガディスさんを起こす特権です!」
まったく……王女だって自覚あるのか、このお姫さんは。
そんな俺の心情を読み取ったのか今度は一転。
むすりと不機嫌そうな声を出した。
「ちゃんとベッドで寝てください!」
「……悪い」
執務室で朝を迎えるのはこれで何度目だろうか。
多分、ここしばらくの間はほぼ毎日だったろうと思う。
「案件終わったんですよね?」
「まあな。俺としてはこれでいきたい所だが……」
「じゃあ朝食とってから、父さんに意見を聞きにいきましょう!」
「そうだな……そうするか」
こきりと首を鳴らしながら言うと、また笑顔になる。
「あ、父様っ! 今日はお仕事ないんですか?」
「義父上に意見を聞いて了承が出れば、少しは時間がとれる」
「やったあ! じゃあ僕の剣の稽古をつけて下さい!」
「そうだな。どれくらい上達したかみてやろう」
「わーいっ!!」
アメリアと俺の手をにぎってはしゃぐ姿。
こんな朝を迎えられると、数年前の俺は思わなかったろう。
それこそ、あの破天荒コンビでさえ。
幸福になりすぎて今朝の夢も懐かしめるほどに。
「ゼルガディスさん」
「父様!」
「「おはようございますっ!!」」
こんな言葉だけでも。
嬉しいと思えるようには。
「おはよう、二人とも」
END.