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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

紡ぐべきは(TOX2/ジュミラ)


※支部に投下したもの
※時間軸はTOX2・ミラと再会して数日後くらい。




最初は普通の子だと思っていた。
確かに頭の回転が早く、機転がきき、切り替えも早い。
しかし幼さゆえに考え方が甘く、精神的にも未熟だ。

普通の子だと思っていた。

けれど、子は時とともに成長してゆく。
小さな水魚ように、世の流れを泳ぎ進む子。
時に煽られ、時にせき止められ、それでも進んでいく。
己の意思さえ消えかかっても、子は大きくなってゆく。
あどけない表情から、精悍なたくましい表情へ。

その成長はとても純粋で、美しい。
寄り添おうとしてくれた成長が頼もしい。

だからこそ隣では駄目なのだ。
子の成長を止めかねないのならばと。
隣ではない場所から願うだけだと。
理解していたというのに。

嗚呼、何故、
成長した子を見て切なくなるのだろう。

幼さが薄れた表情も、少しだけずれた目線の位置も。
その成長を促していたのに、その成長が誇りであるのに。

ひどく、悔しいなどと。



「ミラ」
「ジュードか」

海を眺めていた私の後方から、近づいてくるジュード。
何か用があるのかと立ち上がろうとした私を、軽く制する。
私の背後までやってきたジュードは、私に背を向けて座りこんだ。
だが、そのままジュードは黙してしまう。

……彼の意図がよく分からない。
しかし私に言うことがあるのならば、いずれ口を開くだろう。
特に急かすこともないかと考え、私は前へ向き直る。
すると、背に軽く重みがかかってきた。
今の私たちの体勢を考えるならば、ジュードの体重のはず。
彼にしては珍しい行動に、目を見張った。

「ジュード? 一体どうしたというのだ」
「……うん。あのね、ミラ」
「ああ」
「僕、分かってるから」

ジュードの静かな声に私は瞬く。

「ミラが僕たちのこと、ずっと想っててくれたこと」
「……ジュード」
「時々、ミラの気配を感じることがあって……頑張れた」
「それは、私だけの力では」
「うん、それはちゃんと分かってる。でもミラが見守ってくれてると
 思ったら、やっぱり嬉しかったし、気力も湧いてきたよ」

ジュードが私の手に優しく触れる。


――先の旅で、彼が強くなるのを感じた。
しかし再会したあと、私は改めて強く感じている。

ジュード・マティスは成長したと。

彼という存在は変わらないが、心が大きく成長している。
あるべき人の姿に、悔しさを感じている私はどうしたのだろう。

知らぬ間に急激な変化をしているからか。
いつか互いを置いていく存在だからか。


「研究がうまくいかなくて落ちこむのは、今も多いけど……
 ミラのくれた時間の中で、僕たちの未来のために頑張れるのは……
 会えなくても、繋がってる証拠だと思えたから」

あまりの優しい言葉に息を呑んだ。
人の言う驚愕とは、感嘆とは、こういうことなのだろうか。


今の言葉で私は気づいてしまった。

――彼の成長を傍で見守ることができなかった。
それだけが、私は悔しかったのだ。


私ではない者が、私ではない物が、彼を成長させてゆく。
もう関わることが出来ない私以外が、彼を変えてゆく。
私と彼を隔て、遠ざける狭間。

ひどく、嗚呼、ひどく、それが悔しかったのだ。


「だから何とかここまでこれたのに、やっぱり僕は駄目だね」

嗚呼、それでも。
この子は、彼は、君は。


「ミラがいる」


触れた手に力がこもる。


「その事実が僕の力になる」


――それでも君は。
何も出来ない私の存在が、君の力になると言ってくれるのだな。

ゆっくりと空を仰ぐ。
ことりとぶつかる後頭部に君は微笑んでいるはずだ。
きっとこの瞬間を、心持ちを、ひとはこう言うのだろう。



ジュード。

私は君が “愛おしい” よ。





END.

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