忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

桜演舞(戦無2/幸三)

 
※三成サイド

 





ひらひら
ひらひら


淡い色が埋め尽くす中を、三成は歩いていた。
一歩一歩、足を動かすたびに風と桜が周りを踊る。
三成はそれを見て、ぴたりと歩みを止めた。

ゆっくりと空を仰ぐ。

濃い水色の合間を、日差しが差し込んでくる。
その光とともにとめどなく振り続ける桜吹雪。

以前の自分ならば、歩みを止めなかっただろう。
こうして桜など見上げもしなかっただろう。
そう、以前の自分は。

三成は少しだけ目を細めて考えてみた。

もしこの時…… 『桜がきれいですね』 と言われたら。
そうしたらきっと。

「三成殿」

ふいに名前を呼ばれて、三成は我に返る。
そして桜吹雪の向こうの人影に、視線を向けた。
思い描いた人物と、そこにいた人物の顔がひとつに重なった。

――真田幸村。
兼続とともに義を誓いあって、友情を築いた青年。
敵兵へと槍を構えるその双眸は、灼熱の焔を秘めている。
しかし、それはあくまで戦の中のこと。
普段は決して荒々しくなく、物静かな礼儀正しい青年である。
そして誰にでも、穏やかに優しく微笑むことが多い。

現に、幸村は今も微笑んでいる。
だが三成は、そんな幸村を見てぎょっとした。

「幸む、らっ……!?」
「散歩ですか? 桜がきれいですね」

先ほど三成がぼんやりと考えていた言葉を、幸村はあっさりと
口にしたのたが、三成はそんなことを気にかける余裕などなかった。
まったく気にすることはできなかった。

「なっ……! ど、どうした……その格好は……!?」

それほどまで、幸村の格好は酷かった。
まるで、つい今しがた戦を終えてきたようである。

上半身の黒い服は、肩やわき腹の辺りが微かに引き裂かれ。
まくりあげられた袖の下から現れている、鍛え抜かれた二の腕は
赤紫にまで変色しているほど酷く腫れ上がった痣が何箇所もつき。
それだけには飽きたらず、頬や額や口はしにさえ、かすり傷や
切り傷があり、おまけに全身がびしょぬれだった。

「……ああ、これですか……」

素早く近づいてくる三成に微笑んでいた幸村は、自分の姿を見下ろす。
彼にしては珍しく、何か言いにくそうに口をつぐむ。
けれど三成のにじろりと見上げてくる視線に、すぐ降参してしまう。
やはりどこか言いにくそうにしながらも肩を落として、実は……と、
ことの経緯を話し始めた。



ビュッ!!

唸りを上げて突き抜けてくる刃を、幸村は必死で交わす。
胴体を捻って吐き出す呼吸とともに、その場を一歩横に飛んだ。
それと同時に刃に向かい、槍を薙ぎ払う!!

ガギィン!!

鈍く、それでいて重みのある悲鳴を上げて刃は交じり合った。
ギヂリ――と嫌な響きの後でもう一度力を入れて振る。
すると、刃と刃はお互いに弾けた。

「オラオラオラオラオラッ!!!」
「け、慶次殿!!」


どこか浮いた享楽のようなものを滲ませながらも、そこにはまた別の
本気の迫力を感じ取った幸村は、風を切り裂いて刃を振るい続ける
慶次を何とか止めようと叫ぶ。

「何だ幸村!? もう仕舞いかあっ!?」
「殺気を出しすぎです、もう少し手加減して下さい!!」
「鍛錬も遊戯も、本気でやらねぇとなあ!!」


武士として一理あると思った幸村だが、実際はそれ所ではない。

最初は幸村が川原の傍で一人で鍛錬をしていた所に、慶次と兼続と
左近が散歩ついでにやって来た。
そして誰が何を言い出したか幸村はついぞ忘れてしまったが、
何故だか慶次と鍛錬をすることになってしまった。
鍛錬だから軽く汗を流す程度だろう……そう思った幸村は間違っていた。
――遊びでも本気でやる男が、前田慶次である。

そう、幸村が後悔しても遅かった。

鍛錬を初めてからさほど時間は経っていない。
しかし、すでに幸村の体は、見た目がぼろぼろで悲惨な状態になっていた。
もちろん避けたり受け止めたりしていたので、まさかでも命などには
関わらない怪我ではあるが、それほどにま慶次は容赦しない。
とはいえ、あまりにも殺気を出されると無意識に反応してしまう。

「だからと言って……」

顔に向かってきた刃を後ろに下がって避けた。
一瞬の、その選択が悪かったのだろう。

バランスを取ろうとした踵が、ガッと拳一つほどの石にあたる。
しまった――そう幸村が思った時には、もう目の前は青空。

ドバシャーンッ!!!

「幸村ーっ!?」


兼続たちの驚く声を耳に、幸村は小川の中に落ちた。




「……と、いうわけでして……」
「あいつら……どこにもいないと思ったら、馬鹿なことを……」

情けない結果でお恥ずかしい、と呟きながら頬をかく幸村に、
三成は慌ててしまった分、思いきり脱力した。
深いため息をついたあとで、動揺した恥ずかしさを隠すようにして
三成は幸村が持っていた布を引ったくり、強く押し付けた。

「わ、ぷ」
「とにかくもっと拭け!! 傷も手当てしろ!!」

命令口調になる自分の言葉に、一瞬だけ三成は眉をひそめる。
どうにも性格上、心とは違う言葉が口からすらすら出てしまう。
それを主君に、その妻にさえもたしなめられている。
今でもそうなのだが、最初はいつの頃だったか。

当時はあまり、気にしなかったのだがな……。

何故だか、三成は自分の性格が余計に疎ましく感じた。

「ありがとうございます」

そんな心情を知らない幸村は、睨みつけるような三成に照れたような
笑顔をにっこりと浮かべて送った。
――とたんに、三成の頬が熱を持った。
目線を合わせていられなくなった三成は、ふいっと顔をそむける。

…… “また” だ……。

他の誰かではならない、幸村だとなるこの感情の変化。
その感情の答えに、三成は気がついていなかった。

「き、傷の手当てをしに行くぞ!!」
「はい」

がしっと手を掴んで足早に歩き出すと、幸村もそれに合わせて
歩き出した。
今が戦の真っ只中ならば、こんなことなどなかっただろう。
皆が笑って暮らせる世を作ると、主君は言った。

早く……そんな世の中にしなければな……。

とりあえず今は幸村の手当てをするべく、三成はきっと顔を上げた。





「おいおい誰だよ……幸村はあいてるっつったのはよ……」

がっくりと肩を下げて額に手を当てるは慶次。
はー、と息を吐いて兼続が心底驚いたように呟いた。

「む……いや、まさか三成がいたとは……」
「ほおう。殿もやりますねえ……」

左近も知らなかったようだ。
声には驚きと苦笑が入り混じっている。
三人は桜の幹の向こう側から、幸村と三成の一部始終を見ていた。





END.

拍手[0回]

PR