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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

果てのない其処(ハルヒ/キョン)


※女主人公





――私はいつか、空に落ちる。

落ちて、堕ちて、墜ちて、果てない所までおちていく。
それは妄想でも妄言でも妄信でもない、確信のある夢だ。
物心がついた頃から、見続けてきたゆめだ。
それがいつなのかは分からないけれど、私はあの青さの中に
吸い込まれていくのだ。

青く、蒼く、碧く澄んだ空の彼方に。

私は逆らうことなど許されず、それをただ待つのみ。

昔はそのいつかが怖くて恐ろしくて仕方なくて、良く部屋の隅で
独りで泣いた。
両親たちは不可思議な夢のことなどひとかけらも信じては
くれなかったからだ。

信じないというより無視をした。
相談した友達は嘘だと決めつけて笑い、それを知った教師たちは
カウンセリングを受けるようしつこく薦めてきた。

わずらわしかったので一度だけ受けてみたらカウンセラーは
妙な顔つきをした。
それ以来夢のことを話さず、独りでいつかを待つことにした。
周りは私に何も言わなくなった。

景色と、空気と同化している。

私はそれらが苦しいとは思わない。
いつかは空におちて空と同化するのだから、その前提だと思う。
そうすれば、いつか空におちても平気だろう。



「……また、空見てんのか」



やんわりと空気をかきわけて届いた声に下を見ると、
屋上のドアの向こうから眩しそうな目をした男子が出てきた。
同じクラスで、席が隣の――名前は何だったか。
彼の周りにいる友達は、彼のことをあだ名らしい “キョン” と
呼んでいたような気がするけれど。

「危なくないのか、そこ」

彼にそう言われ。
私は、彼から自分が座っている給水タンクに視線を移した。
ここが学校で一番空に近い場所だから座っているだけだったので、
危ないという可能性など考えたことがない。
何故か彼は私の答えを待っているようなので、大丈夫だと言ってみる。
すると彼は肩をすくめて、そうかとそれだけ答えて、私から視線を外すと
空を見上げる。
私はつられるようにして空を見る。

そして少し驚く。
自分から望んで空を見ていたはずだったのに、こんなのは初めてだ。

「へえ、何かいつもよりすげえな……夕日」

言われて、私は空から太陽に視線を移す。
紅や橙色の淡い雲間から光り輝く優しげな太陽の光。
私は思わず息を呑んだ。

確かに彼の言う通り、とても綺麗だ。
私は常に空ばかりを見ていたはずだというのに、こんなに綺麗だと
思えるものをずっと見逃していたなんて。

――何故だろう。

空を見れば必ず目に入るだろうそれに、今まで気づかないとは。
どうして、こんなに綺麗なものだと思えるのか。
やはり私がいつか空に同化して、あの太陽の身近なそんざいに
なれるからなのだろうか。

「空に同化?」

無意識に声に出していたのだろう、彼が不思議そうに訊いてくる。
思わず、夕日から視線を外して彼を見た。
自分としても周りから噂されている方だと気づいてはいたが、
彼は私が空を見ている理由を知らなかったのか。
だからふとした時に、いつも話しかけてきたのか。

……何故だろう。
何故だか、胸の奥が痛い。

彼の瞳を見ていると、彼の声を聞いていると涙が出てきそうになる。
空に怯えていたあの頃の涙とは違う涙。
私は一体、どうしてしまったのだろうか。

彼に私が見続けている夢の話をしたら、どう思うのだろうか。
どう感じるのだろうか、空におちる夢を。

――ああ、だけど今なら。

慄いていた、待ち望むいつかが今ならば。
いいのかもしれない。





深  く  深  く 

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