※BL
ちくり、と射るような視線の刺が背中を刺してくる。
何故かただそれだけで謝りたくなるというか、いたたまれない気が
してきてしまう。
きっとそれは、相手の雰囲気がなせる技だろうと思ってみた。
しかし刻々と続けられると、どんなに気づかぬ振りをしていても
限界がくるもので。
「なあ……何か言いたいことあんなら、言えよ」
振り向けば、それより一瞬だけ早く逸らされた涼やかな瞳。
まるで今初めて気づいたような目で……と言っても、いつもの
冷たい目線なのだが、それを少しだけこっちへと視線を向ける。
「あるわけなかろう」
「……そうかよ」
淡々とした、いっそ冷たい声にげんなりとした。
素直に答えはしないだろう……とは思っていたが案の定だ。
一つ大きな溜息をついてみせて、手元へ視線を戻す。
すると、数秒遅れてまたもや背中をちくりと指す視線。
繰り返し。また繰り返し。
それを聞いてみたのは、先ほどので2回目。
3回目はきっと、本当に怒りの色が混ざるだろう。
一体何をしたいのか分からないのが困る。
相手は知恵を持つ策士であり、そうでなくとも心の内を読ませない。
それはたとえ、己と共に戦う仲間であっても……だが。
同盟を結んだあとだとて、互いに一国を担う者同士である。
とはいえ、互いにのん気に茶などを飲み交わして政について
話すような性格でもないし、本当にそんなことをすれば部下たちが
真面目に心配してくるだろう。
ちくり、ちくり。
視線がいたたまれなくて始めた、からくりいじり。
それすらも視線のせいで集中できずにいる。
「(あー、めんどくせえ!!)」
卓の上にからくりを置いて、ごろりと仰向けに寝転がる。
そのまま本気で寝入ってしまったとて、相手はまったく気にしない。
むしろ冷たく一瞥したあとに、何も言わずに帰るのだろう。
閉じかけた目に、外の空が映る。
確か朝は気持ちよく晴れていたのに、今は雷が鳴りそうに暗い。
もう少しすれば、いきおいのある雨が降ってきそうだ。
視線が気になって、そんなことも気づかなかった。
しばらく無言で空を見る。
その後で、ぐいっと相手の腕を引っ張ってみる。
不意打ちと力強さにその身軽な体は、いとも簡単に傾く。
音もなくごろりと自分の上へ転がってきた。
じろり、ときつい目が見下ろしてきた。
「貴様……よほど焼け焦げたいと見える」
「うるせえ。もう寝ちまえ、お前」
「馬鹿者。これで寝られるわ」
反論する口を塞ぐ。
「――何なら、寝所に移動してもいいんだぜ」
戦に立つ身としては考えられない細い腰に、両腕を回す。
こんな時にしか見せない特別な色が目に宿った。
この矜持の高い男が、自分にしか見せないその姿。
胸の奥に深い優越感が沸いてくる。
「焼け焦げよ」
「ああ、鬼ヶ島の鬼が焼けるっつーんならな」
「……ふん……」
信奉している日の光が降り注いでこない。
闇の中に孤立するような虚無感。
淋しいならそう言えよ、とは言わない。
この状況で誰がそうしてやるものか。
口端を見えないように緩めた。
END.