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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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必ず負ける約束(願叶シリーズ)

※願叶主人公




「……あ」

ぴたり、と手を止める。
あたしは腕を組みながら溜息をついた。
思わずテーブルの上に並べた材料を睨んだ。

「あああ、また脱狼薬の材料が足りないし……」

脱狼薬は魔法薬の中でも、作るのが難しい。
だからその材料はかなりデリケート。
少しでも保存方法を間違えれば、すぐに駄目になってしまう。
だからほとんどの材料が、買い置きするなんてことが出来ない。

脱狼薬を作り続けてきたあたしは悩んだすえに、材料を多めに買って
多めに薬を作る方法を選んだ。
そうすれば、あとは保存を間違えなければいいんだし。
1ヶ月に1回作って終わりじゃ大変だからね…数にも限度はあるけど。

「仕方ない、買いにいかなきゃ……」

部屋に戻ってコートを着てマフラーを巻く。
財布の中身を確認してバッグを持った。
今日はハリーは朝からロンの家に遊びに行っちゃってるし、シリウスと
リーマスは買い物に出かけてる。

ついでに夕飯の材料も買ってきてくれるって言ってたけど……
うーん、ハリポタの世界でケータイが普及してるなら材料も
買ってきてほしいって言っちゃえるんだけど。
こればっかりは仕方ないと分かってても、ね。

リビングに入って暖炉の上に置いた小鉢を取った。
でも、手に取った小鉢の軽さに嫌な予感がする。
おそるおそる中を覗いてみると――。

「……フルーパウダーもないっ!!」

窓の外を見る。
晴れてはいるけど木々が休む暇なく揺れ続けてる。
うう、風がすごく寒そうだけど仕方ない……。
こうなったら姿現しで行こう……。
あたしは観念してマフラーをしっかりと巻きなおした。



「えーと、材料で足りないの全部買った…フルーパウダーも買った、
 色々細かいのもついでに買ったし、あとはないかな?」

腕に抱えた荷物の重みにちょっとだけ顔をしかめながら、指折り数えて
他に忘れ物がないか確かめる。
ふと、頬に何か雫が落ちてきた。
それに気づいて顔を上げると、また一滴。

「……ちょっと、まさか雨? もー、こんな時に!!」

その辺にあるお店の軒下に小走りで駆け込む。
するとそれが合図だったみたいに、空から雫がぽたぽたと零れ始めて、
やがて静かな雨に変わった。
買い物中に風がやんできたから、これで少しは寒くなくなったかなと
思ったりしたのに……今度は雨で寒いなんて本当についてない。

このまま雨宿りしてても、帰りが遅くなっちゃうな……。
誰かが帰ってきた時にって、とりあえずメモは残しておいたけど。
荷物が邪魔だから早いとこ姿現ししよっと。

そう思って溜息をついて顔をあげたその前を、黒い影がすばやく
通り過ぎて、あたしの横に駆け込できた。
思わず、横を見たあたしは硬直する。
うっとうしそうに、ローブから雨粒を振り払う姿に。

「……スネイプ先生?」
「…………ん?」

ローブを叩き終わったセブルスが、まさかという声色のあたしの声に
反応して怪訝そうに振り返った。
ああ……本物のセブルス・スネイプ先生だった……。
久しぶりだけど、やっぱり言葉の前に間があくね。

「……我輩を知っているのかね?」
「え? あ、すみません。うちの子がホグワーツなので――」
「……そうか」

うちの子って、ハリーのことだけどね。
そして、あたしもホグワーツ通ってたんだけども。

でもセブルスは、あたしが生徒の母親だと勘違いしたらしい。
納得したように頷いた。
……だけどね、セブルス……?
あたしって25歳だから、普通にホグワーツに通ってる子供がいたら、
最低14か15の時に子供を産んでないといけないんだよね……。

しかもあたしは外国人には幼く見られがちな日本人なせいか、年齢を
知ってる人以外からは、正確な年齢を当てられるためしがない。
こないだ初めて会ったウィーズリー夫婦にも、幼く見られたしさ。
20代前後ぐらいにまで間違えられたのは、驚いたけど。
セブルスって……ちょっと天然入ってるのかな?

雨はまだやみそうにない。
んー、何となく姿現しするタイミング逃しちゃったな。

「……その材料は……魔法薬のものか?」
「はい、そうです。魔法薬はほとんど自分で作るので」

ちょっと降りてきた沈黙の中、セブルスがあたしの持つたくさんの
荷物をちらりと見て訊いてくる。
あたしは軽く頷いた。
まあ自分で作って言っても、脱狼薬だけだけどね。
するとセブルスは少し目を見開いた。

「ほう……。大抵は買う者が多い中で珍しいな。……それに材料を
 見るからにかなり扱いの難しい薬だろう」
「とても。一般家庭だと、ほとんど材料の買い置きが出来ません」
「そこが魔法薬学を、一般人から遠ざける要因でもある」
「はい。出来るようになると嬉しいんですけどね」

確かに最初は、すごく大変で難しかった。
だけどちゃんと作れば、リーマスが苦しまなくてすむ。
普通の薬からどこまで副作用が出ないのか考える。
色んな書物を読んで、試行錯誤して。
それでリーマスがもっともっと安心して、暮らせればいい。

あたしが転がり込んだ時や、ハリーがうちで暮らし始めた時、満月が
近くなるたび余所余所しくなってたリーマスだけど、最近は苛立ちも
不安もあまり隠さなくなってきてる。
リーマス自身は、ほとんど自覚してない変化。
だけどシリウスもハリーも、そのことにちゃんと気づいてて。

いつか。
出来るならその苛立ちも不安も取り除けるような、そんな脱狼薬を
作れるようになりたい。

「……君は……以前どこかで……」
「はい?」



「――ハルカ!!」



セブルスがあたしに何かを言いかけた所で、通りの向こう側から
すごく大きな声で名前を呼ばれた。
驚いて振り向いて、もう一度あたしは硬直した。
静かに振り続ける雨の中。
傘を差しながらずかずか歩いてくるのは、シリウスだったから。

こ、怖い……。

「シ……シリウス……」
「またお前は、約束を破る!!」
「もう……雨宿りしてただけでしょー?」

うう……また怒られた。
何でシリウスはそんなに、セブルスと一緒にいてほしくないのかな。
仲が悪いにしても、あたしに言っても仕方ないような……。
肩をすくめて、ちらりとセブルスを見てみる。
何だかすっごく奇妙な顔をしてシリウスを見てた。

「…………ブラック……?」
「何だ。お前、ハルカに何もしてねえだろうな」
「……何とは何だ」
「だから、雨宿りしてただけだって。シリウスこそどうしたの?」

ぐいっとあたしとセブルスの間に入ると、シリウスは少し顔をしかめた。
でもすぐに、あたしの手からひょいっと荷物を取った。

「迎えにきたんだよ。荷物を持って雨の中は面倒だろうからな。
 フルーパウダーもなかったから姿現しすると思ったんだ」
「そっか、ありがとう」
「さ、行くぞ。風邪を引く」
「おい!」

あたしの肩を押して、シリウスは歩き出そうとする。
それを止めたのは呆然としてたセブルス。
シリウスはまた、不機嫌そうに後ろを振り返った。

「ったく……何だよ」
「何だではない。だから……その、彼女は……」
「……お前、やっぱりハルカに何か――」
「わ、分かったから、ちょっとシリウス黙って!」
ハルカ!」

シリウスが不満そうな声であたしの名前を呼んだ。
そんな拗ねたような顔されたって、困るって。
あたしはシリウスに黙っててと合図をしてから振り返る。
眉をひそめるセブルスと目が合った。

「えっと……スネイプ先生、いつもハリーがお世話になってます。
 それから去年は、あたしの方もお世話になりました」
「……ポッター? 去年……?」
「あたし、去年編入させてもらってグリフィンドール寮生になった
 ハルカハセガワです。ちょっと事情があって1年だけホグワーツに
 通ってましたが、本当の年齢はこの姿の方なんです」
「な!?」

身体としては、ホグワーツにいた頃が正解なんだけどね。
セブルスは大きく口を開いて驚愕した。
その珍しい姿で機嫌をちょっと直したらしいシリウスは、これ以上は
問答無用とばかりにその場をあとにしようとする。
あたしは最後の一言を言って、その場を離れた。

「これからもハリーのことを、よろしくお願いします」



人通りの少ないダイアゴン横丁を2人で歩く。
未だに肩から手を離してくれないシリウス。
シリウスがもう片方の手で荷物を持ってるから、傘はあたしが受け持った。
かなり密着してるから、少し歩きづらいし傘は持ちづらい。
ふと、あたしは気がついた。

そういえば……この姿でシリウスと歩くのって初めて?

今日は薬の材料の買い物だったから25歳の姿になったんだけど、
いつもなら13歳の姿でも構わないからそのままだしね。
25歳の時でもハリーもリーマスもいたから。
……しかも、この状態っていわゆる、相合傘ってやつだよね。
う、意識したら何か恥ずかしくなってきた。

ハルカ……また約束――」
「またそれなの?」

シリウスと交わした、セブルスと2人きりになるなって約束。
それがどうしてなのか、リーマスは笑ったまま理由を教えてくれない。
ハリーは知ってそうだけど、何だか楽しそうにしてる。
今日の雨宿りの場合は本当に仕方ない気がするんだけど……だって
セブルスが来たのはあとからだったし。

「今日のは仕方ないと思うんだけどなあ」
「…………ハルカ、左手出してみ」
「え? うん」

言われるがままに左手を上げてみる。
両手の塞がってるシリウスは、そのまま顔だけ下げた。

冬の雨で冷たくなってきた指に吐息がかかって。
薬指の指輪に、シリウスが軽く口付ける。

目の前でそれを見てしまったあたしは、思わず肩を揺らす。
かっ……顔から火が出そうになるかと思ったー!!
動揺するあたしを横目で見るシリウス。
そして小さく微笑んだ。

「約束な」
「……わ……分かった……」

シリウス、ずるい。
そんな風にされたらそれしか言えなくなる。

真実も言い訳も聞いてもらえることなく、結局はまたその約束に
逆戻りでフリダシに戻る。
惚れた方の負けっていうのはよく聞いたりするけど、ここまで完璧に
負かされるってないでしょ……?

悪くないとは、思っちゃうけどね。





END.

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